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第六章 笛鳴りぬ(6)
日期:2023-12-06 14:02  点击:265

 まえにもいったように美禰子は美しくない。それに母がああいう状態のせいもあろう

が、精神的に背伸びをしているようなところがあって、それがいっそう彼女の表情をいか

つく見せる。しかし、いまこうしてしょんぼりと、肩を落としているところを見ると、や

はり娘らしく可か憐れんなところもうかがわれる。

 金田一耕助はなにかいって、慰めてやろうと思ったが、うまい言葉も見当たらぬうち

に、美禰子が急に顔をあげて、

「先生、それじゃこれから階し下たへいって、みんなに訊きいてみましょうか。電気が消

えたとき、どこで何をしてたかってこと。……」

「さあ。……それもいいが、おそらく無駄でしょうね。暗がりのなかのことだから、噓う

そをつかれたって、反証のあげようがない。しかし、とにかく階下へいきましょう」

 美禰子はちかりと眼を光らせて耕助の顔を見たが、そのまま何もいわずに唇をかんだ。

 ふたりが階下へおりていくと、応接室のソファによって、菊江が本を読んでいた。少し

はなれて一彦が、立ったままぼんやりと、煖炉棚マントルピースのうえにかかった油絵を

見ていた。

 ふたりのすがたを見ると、菊江はすぐに本を伏せて立ちあがった。

「美禰子さん、あれ、レコードだったんですって?」

「ええ。……」

 美禰子はあいまいに言葉をにごして、なるべく菊江のほうを見ないようにしている。彼

女は出来るだけこの女を、無視しようとしているらしかった。

 菊江はしかしそんなことにはお構いなしで、

「それで、誰がレコードをかけたか、おわかりになって?」

「そんなこと、まだわからないわ」

「そう、でも、少なくともあたしじゃないわね」

 菊江は耕助のほうへ明るい笑顔をむけて、

「ねえ、先生。あなた証明してくださるでしょ。レコードかけたの誰だかしらないけれ

ど、それはきっと停電になってから間もなくのことよ。ほら、 子奥さまが、二階に誰かい

ると、おびえていらしたでしょ。あのときのことよ、きっと。だとするとあたしはここ

に、先生や奥さまといっしょにいたんですものね」

 美禰子はちょっとおびえたように菊江を見たが、そのままその眼を耕助のほうへむけ

る。

 金田一耕助はにこにこして、

「あっはっは、菊江さん、あなたはなかなか聡そう明めいですね。レコードがかけられた

時間を、ちゃんと御存じだったんですね」

「だって、それくらいのこと、あたしにだってわかるわ。レコードが鳴り出したとき、う

ちのひとはみんな、お種さんをのぞいてみんな、占いの席にいたんですものね。お種さん

があんな悪戯いたずらをするはずはなし、まさか外からひとがしのびこんでねえ。……だ

から結局あそこにいたひとってことになるんだけど、するといつレコードをかけたの

か……そう考えていくと誰にだってわかる問題よ。つまり、停電を利用した悪戯なのね」

「しかし、菊江さん、ああいう悪戯をした人物が、どうして占いの席にいたひとでなけれ

ばならないんですか」

 菊江は急にくりくりと、悪戯っぽく眼をひからせて、美禰子や一彦のほうを見ながら、

「それはね、先生、あなたがもうしばらくこのおうちにいらっしゃればすぐわかることで

すわ。このおうちのひとたちったら、それは妙なのよ。みんなたがいに疑い、憎しみ、呪

のろい、怖おそれあってるみたいよ。なぜそうなのかあたしにもわからないわ。だけどみ

んな、ほかの連中にぐゎんと一撃くらわしてやろうと、身構えしてるみたいなの。そうし

なければ逆に、自分のほうがやられるかもしれないというふうに。……あら、御免なさ

い、美禰子さん。こんなこと云ってしまって。……」

 美禰子の頰は怒りのためにまっかに染まっていた。それにもかかわらず彼女が一言も発

することの出来なかったのは、たぶん菊江のいうことが、真実をうがっていたからだろ

う。

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