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第六章 笛鳴りぬ(8)
日期:2023-12-06 14:02  点击:252

 占い部屋のドアの左側に、黒塗りの頑丈な台があって、そのうえに唐金の花瓶がおいて

ある。ところがその花瓶の高さというのが、ちょうど耕助の眼の高さにあるので、つい何

気なくおいたものらしく、帽子はすっぽり花瓶の口にふたをしているのである。

「あら、まあ、おっほっほ、妙なところへお置きになったものね」

 笑いながら何気なく、菊江が手をのばしてその帽子をとろうとすると、花瓶が急にぐら

りと傾いた。

「あっ、危い!」

 一彦と美禰子が左右から、あわてて花瓶を手でおさえた。その声に部屋の中から、三島

東太郎がとび出してきた。

「どうかしましたか」

「あら、なんでもないのよ。先生のお帽子が花瓶の口にひっかかってとれないのよ。三島

さん、とってあげてよ」

「どれどれ」

 東太郎がかわってとろうとしたが、帽子はなかなかとれなかった。花瓶の口はちょうど

帽子のサイズと同じくらいだし、そのうえ花瓶の表面に浮き彫りしてある、竜かなんかの

一部分が、帽子の裏皮にひっかかったらしく、東太郎が無理にとろうとすると、ビリビリ

と皮の縫い目の破れる音がした。

「あらあら、たいへん、先生のたいせつなお帽子が……」

「あっはっは、菊江さん、あなたは皮肉ですな」

 金田一耕助が笑ったときである。部屋のなかで突然怒気をふくんだ声が爆発した。

「誰だ! そんなところで、ごちゃごちゃふざけているやつは!」

 金田一耕助はびくっとしたが、ほかの連中が案外平気なので、そっと部屋をのぞいてみ

ると、それは玉虫もと伯爵だった。

 玉虫もと伯爵はさっき目賀博士の坐すわっていた椅い子すにどっかとひかえ、ウィス

キーの角かく壜びんをそばにおいて、もうかなり酔いのまわった眼を、ギラギラと血走ら

せている。

 円卓のうえの砂鉢には、まだあの朱塗りの扶ふ乩けいがおいたままだったが、金田一耕

助はそれとはべつに、そのとき妙なものが部屋のなかにおいてあるのに気がついた。

 それは高さ一尺二、三寸、台座の直径三寸くらいの仏像のようなもので、部屋の左手の

くろいカーテンのすぐまえにある、脚の高い机のうえに飾ってあるのである。

(はてな、さっきはあんなものがあったかしら。……)

 金田一耕助はちょっと小首をかしげたが、すぐその仏像のある部屋の部分が、さっきは

ホーム・ライトの光の外になっていたことに気がついた。

(ああ、それで気がつかなかったのだ。……)

 金田一耕助がぼんやりそんなことを考えていると、玉虫老人の癇かん癪しやくがまた爆

発した。

「誰だ! そ、そんなところからジロジロのぞいているやつは!」

 ひとつかみの砂がばっと足下に散ったので、耕助はびっくりしてとびのいた。

「うっふっふ!」

 菊江が首をすくめて、

「あたしが放ったらかしといたものだからおこってるのよ。じゃ、先生、さようなら、御

免なさい」

 イヴニングの裾すそをからげて、菊江が部屋へはいっていくと間もなく、やっと東太郎

の手によって、耕助の帽子は無事に救われた。

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