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第十六章 悪魔ここに誕生す(1)
日期:2023-12-07 15:31  点击:276

第十六章 悪魔ここに誕生す

 植辰のあとを譲られたという植松の住所を聞いて、出川刑事が出かけたあと、金田一耕

助は女中に寝床をのべてもらって横になった。

 金田一耕助も戦争のために、ニューギニアの果てまで流れてきたくらいだから、見かけ

ほど弱くはないが、やはり張り切り型の出川刑事のようなわけにはいかなかった。夜汽車

の旅はつかれるのである。

 しとしとと枕まくらに通う秋雨の音をききながら、一時間ほどうとうとして、四時頃、

眼をさましてみると、出川刑事はまだかえっていなかった。寝床を出て、縁側の障子をあ

けて見ると、雨はすっかりあがっていて、庭は床に入るまえより、かえって明るくなって

いる。

 耕助が蒲ふ団とんをたたんでいると、おかみがお茶とお茶菓子を持って入って来た。

「あら、それはそのままにしといておくれやす。いま女中に片付けさせますさかいに」

 と、盆をおいて茶をつぎながら、

「少しはお寝やすみになれましたかいな」

「ああ、よく寝ましたよ。静かでいいな、ここは。……おかげでどうやら疲れもなおっ

た。ときに、刑事さんはまだかえりませんか」

「へえ、まだ」

「植松というひとのうちはここから遠いの?」

「いいえ、そんなに遠いことはおませんのですけれど、どこかほかへよらはったんとちが

いまっしゃろか」

 そういえば、都合によっては土地の警察へ顔を出してくるかも知れないといっていた、

出川刑事のことばを思い出した。

「それとも、植松がおらなんだかも知れまへんな。植木屋ちゅうたかて、今日きようび、

ろくなお出入り先はおまへんですやろ。なんやかやと、闇やみみたいなことをやってるそ

うだすさかいな」

 金田一耕助はボリボリと煎せん餠べいをかじりながら、思い出したように、

「ときに、もと玉虫伯はく爵しやくの別荘だったといううちね、それはここから遠いの」

「いえ、もう、歩いて十分か十五分のところだすが、どないしやはりますの」

「なにね、こうしていても仕方がないから、その別荘でも見て来ようかと思って。……」

「見てくるいわはったかて、戦災をうけてめちゃくちゃだっせ、残ってるちゅうたら石い

し燈どう籠ろうくらいのもんや」

「いや、それでもいいんだ。幸い雨もあがったようだし、ちょっと歩いて来たい。どうい

けばいいのかしら」

「そら、おいでになるんやったらおすみに案内させますけれど。……あの娘もちょうど、

そっちの方角へ出かけるちゅうてましたさかいに」

 呼び鈴を押すと、外出の支度をしたおすみが、障子の外へ来て手をついた。

「おすみちゃん、あんた姉さんのとこへ行かはるんなら、こっちのお客さんを途中まで御

案内してあげておくれやす」

「へえ、あの、どっちゃまで」

「村雨堂のちょっと手前に、大阪の葛かつら城ぎはんの別荘があったん知ってるやろ。こ

ちらさん、あの別荘を見て来たいいわはりますさかい」

 おすみは不思議そうな眼で耕助を見て、

「まあ、葛城さんの別荘ちゅうたかてまるでもう、跡かたもなくなってますけど」

「いや、それでいいんだよ。どのへんだか、ちょっと見てくればいいんだ」

「へえ、そんならどうぞお玄関のほうへおいでやして。わたしはお勝手から出ますさかい

に」

 耕助が玄関を出て待っていると、おすみが横のほうから小走りに出て来た。

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