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第十九章 淡路島山(3)
日期:2023-12-07 16:18  点击:264

 甲板の鉄柵にもたれて、桟橋のほうを見ていた出川刑事が、ふと耕助の横腹を肱ひじで

小突くと、

「金田一さん、ちょっと妙なことがありますよ」

「妙なことってなんですか」

「あの待合室のまえに立っている三人の男ね、あれゃあわたしらの仲間ですぜ」

 金田一耕助が陸のほうを見ると、洋服を着た三人の男が、いま、千鳥丸からおりた客の

ひとりに何か訊ねている。客は洋服を着た中年の男で、スーツケースをぶらさげている。

「あっはっは、わかりますか」

「それゃあわかりますとも、眼付きやなんかでね。船に乗るまえから、こいつは客じゃな

いなと睨にらんでいたんです。網を張ってるにちがいないが、いったい何を待ってるのだ

ろう」

「ヤミを監視してるんじゃありませんか」

「いや、ヤミの監視なら荷物を調べるはずですがね。さっきもひとり、洋服を着た男をつ

かまえて何か訊きいてましたが、荷物を調べもしないではなしましたよ」

 見ていると、いま、つかまっている男も、ポケットから何やら出して見せると、そのま

ま荷物を調べもせず解放してしまった。男はあたふたと回かい漕そう問屋のまえを通っ

て、町のほうへ立ち去ったが、そのあとで三人の刑事は、誰もいない待合室へ入ってい

く。また、つぎの船の着くのを待つつもりらしい。

「なるほど、ちょっと妙ですね」

「妙ですよ。淡路で何かあったにちがいない。それでああして非常線を張っているんで

す」

 金田一耕助と出川刑事は、顔を見合わせたまま、しばらく黙りこんでいた。ふいにふた

りがいいあわせたように、かすかに身ぶるいをしたのは、必ずしも潮風の寒さが身にしみ

たせいではなかったろう。

「まさか……ねえ」

「わたしもまさかと思うが……」

 出川刑事はそれきり黙って海のうえを見ていたが、やがて二、三度大きく首を横にふる

と、気をかえるように腕時計を見る。時計の針は二時ちょっと過ぎを示している。

「金田一先生、今夜は淡路へとまらなければならないかも知れませんぜ」

「はあ、そういう勘定になりますか」

「岩屋へ船が着くのが二時半、バスは船と連絡してるそうですが、小井までが四十分、そ

れから尼寺をさがしていくのが三十分として、三時四十分、ざっと四時になりますね。と

ころが洲本から出るバスの終発が六時だそうで、それが小井に着くのが六時五十分頃、岩

屋から洲本のほうへいく終発バスは、それより早く小井を通過していますから、どうして

も六時五十分までに、バスの停留場へ来ていなければなりません。これに問にあうと、岩

屋へ七時半について、終発の連絡船に乗れますが、このバスに乗りおくれると……」

「なるほど、なるほど。すると四時に尼寺へ着いたとして、六時五十分のバスに間にあう

ためには、六時二十分ごろ尼寺を出なければならないわけだから、その間、二時間と二十

分しかないわけですね」

「そうです。そうです。それも妙海がうまく寺にいてくれたとしてですね。もし托たく鉢

はつにでも出ていたら、いよいよ時間が切迫します。椿子爵には一時間ほどのあいだに打

ちあけたらしいが、われわれにはどうでしょうかねえ」

「なるほど、そうすると、六時五十分のバスに乗りおくれると、釜口村泊まりということ

になりますか。しかし、そんな村に泊めてくれるような家がありますかねえ」

 耕助はいささか心細くなる。

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