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第二十章 刺客(1)
日期:2023-12-07 16:19  点击:313

第二十章 刺客

 バスが小井に着いたのは、午後三時二十分ごろのことだった。

 みちみちバスの窓から外を見ていると、自転車に乗った警官のゆききがはげしく、なん

となくあわただしい空気が感じられた。

 バスの停留場へつくたびに、自転車からおりた警官がそばによってきて、運転台に立っ

ている巡査部長と、なにか小声で打ちあわせをしていった。

 小井というのはありふれた半農半漁の小部落で、街かい道どうに沿って、十軒足らずの

人家がならんでおり、浜側の人家のむこうには、網の干してあるのが見える。山手側は人

家のすぐうしろから、爪つま先さきのぼりの坂になっており、小高い丘が眉まゆちかくそ

びえている。

 朝霧山という。問題の尼寺は、この朝霧山の山ふところに抱かれているのである。

 このへんが岩屋署管轄区域の、南のはずれにあたっているのだ。

 一同がバスからおりると、付近の人家から三々五々、ひとが出て来て、軒下に立ってみ

ている。そのなかから警官がひとり出てきて、巡査部長になにか耳打ちすると、一同をか

たわらの人家のほうへみちびいていった。

 それは軒にたばこの看板のかかった家だが、そのころはたばこもまだ自由販売になって

おらず、薄暗い土間にわずかばかりの雑貨や荒物類が、バスのまきあげる土つち埃ぼこり

にうもれてならんでいた。

 一同が店先へ入っていくと、髪の赤茶けたちぢれっ毛のおかみさんが、いままで赤ん坊

に乳房をふくませていたらしく、胸もとをかきあわせながら、おびえたような顔をして出

てきた。

「このおかみさんなんですがね。昨夜バスから降りた客に、尼のことを聞かれたというの

は……」

 おかみはまるで、妙海尼の殺されたのが、自分の責任ででもあるかのようにおどおどし

ていたが、それでも、問われるままに語るところによるとこうである。

 昨夜、五時五十分ごろ、ここを通過するバスがとおりすぎてから間もなくのことであ

る。洋服を着た男がひとり、そそくさと店先へ入ってきて、妙海尼のところを聞いた。そ

こでおかみさんが道筋をおしえてやると、礼もいわずにそそくさと出ていった。なんだ

か、ひどく急いでいるふうであった。

「それで、おかみさんはそれっきり、その男を見なかったのかい」

 巡査部長がたずねると、

「いえ、ところがそれから一時間ほどして、また、そのひとが店先へ入って来やはりまし

て……」

 洲本から出る終発バスは、もうここを通過したかと訊たずねるのである。

「それで時計を見ると、もう七時を十分過ぎてました。いつもなら洲本発の終発バスは、

とうに通りすぎてんならんはずだしたが、昨夜はどういうもんか遅れたと見えて、そんな

話をしているところへ、バスがやって来たんだす。それでそのひと、バスに乗っていって

しまはりましたんです」

「それで、その男、妙海尼のところへいったとか、いかなかったとか、なにかいってやあ

しなかったかね」

「へえ、そら、わたしも訊ねてみました。そしたら尼寺へいったけれど、留守やったで明

日また出直してくるちゅうようなことをいうてましたけれど……」

「いったい、ここから尼寺まで、往復どのくらいかかるんですか」

 出川刑事が横から訊ねた。

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