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第二十章 刺客(2)
日期:2023-12-07 16:19  点击:265

「一時間あったら、たっぷりでしょうね。多少、途中で道にまごついたとしても……」

 そうすると五時五十分ごろここを立って、七時十分ごろ引きかえして来たとしたら、そ

の間尼寺へいって、犯行を演ずる時間は十分あったわけである。

「ところで、おかみさん、そのひとの言葉つきだがね。上方のひとのようだったかね」

 出川刑事の質問に対して、言下におかみはきっぱり答えた。

「いや、あれは東のほうのひとだすな。声は低おましたが、歯切れのええ言葉つきだし

た」

「なるほど、それでおかみさん、その男だがね、ひょっとすると、このひとに似てやあし

なかったかね」

 出川刑事が写真を取り出すのを見て、巡査部長をはじめ土地の警察のひとたちは、思わ

ず眉まゆをつりあげる。

 おかみさんはその写真をと見こう見していたが、

「昨夜のひとは帽子をかぶってはりましたし、それに眼鏡をかけ、ひげを生やしてました

さかいに、はっきりとはよういいまへんが、このひとによう似てはりました」

 出川刑事と金田一耕助は、思わず顔を見あわせる。眼鏡をかけ、ひげを生やし、しかも

この写真に似ている男……それは今朝がた、神戸のミナト・ハウスへ現われた男ではある

まいか……。

 金田一耕助はなにかしら、背筋をつめたいものが這はうような感じだった。

 出川刑事は、ふしぎそうな顔をして写真と自分の顔を見くらべている土地の警察のひと

たちをふりかえると、

「いや、これについては、いずれのちほどお話ししましょう。それではすぐ現場へ」

 街道をそれるとすぐ爪先のぼりの道になっており、そういう坂道がどこまでもつづい

た。野良で働いているひとたちは、一行を見るとみな手をやすめて振りかえる。なかに

は、ぞろぞろついてくるものもあった。都会ではさのみ珍しくない殺人事件も、この平和

な農村にあっては大事件なのである。一種のパニック状態がこの小部落をおそっていた。

 歩くこと約二十五分。一行はやっと尼寺のほとりへたどりついた。そこは部落からはる

か離れた山の中腹になっており、すぐそばには、山の傾斜に沿うて点々と、白い墓石がな

らんでいる。尼寺のすぐうらがわは、谷を利用してつくった小さな貯水池で、すがれた蓮

はすの葉が、蕭しよう条じようたる影を池のおもてに落としている。

 しかも、尼寺とはいうものの、それは九尺二間ばかりの小さなこけら葺ぶきの平家で、

塀もなければ垣根もなく、さむざむと、墓地にむかってむき出しにたっている。なるほ

ど、これではいかに住居に不自由した戦争中から戦後へかけても、住むひとがなかったの

も無理はない。

 この尼寺をとりまいて、大勢ひとがむらがっている。

 先頭に立った土地のおまわりさんが、弥次馬を追いながら、立てつけの悪い腰障子をひ

らくと、なかは狭い土間、土間から四畳半が見とおしで、部屋といってはその四畳半しか

なかった。

 死体はその四畳半のなかに、北きた枕まくらに寝かされており、その枕元に三人の男が

坐すわっている。ひとりは岩屋からやって来て、小井でバスをおりると、すぐこちらへ先

行した医者である。その医者と小声で話をしているのは、土地の医者であろう。ふたりか

ら少しはなれて、眉の白いお坊さんが窮屈そうに坐っている。

「どんな様子ですかな、先生」

 巡査部長が靴をぬぎながら訊ねる。

「そうですな。詳しいことは解剖の結果を見にゃわかりませんが、死因は絞殺、これはも

う間違いはないでしょうな」

「犯行の時間は……?」

「それも解剖の結果を見んことにゃ。……しかし、いまこちらの先生とも話をしていたん

だが、今日のことじゃありませんな。昨夜の、それも、宵の口にやられたんじゃありませ

んか。まあ、あまりはっきりしたことはいえんが……」

 一同があがると、狭い四畳半はいっぱいである。隅のほうに坐っていたお坊さんが遠慮

をして、障子をひらいて濡ぬれ縁の外へ出た。

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