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第二十章 刺客(3)
日期:2023-12-07 16:27  点击:291

 金田一耕助はひとびとの背後から、おそるおそる死体の顔をのぞいてみる。

 丸く剃そりこぼった頭は小さくて、ちょっと釣り合いのとれぬ感じだったが、静かに眼

を閉じたその眼鼻立ちは、人形のようにちんまりと整って、なるほど、若いころには相当

うつくしかったろうと思われる。しかし、どう見ても四十前後の年とし頃ごろとは思われ

なかった。

 だいたい小づくりで、老ふけやすい体質でもあるのだろうけれど、さらに不幸な運命の

重荷が、この女を押しつぶして、この老衰に拍車をかけたのであろう。ミナト・ハウスの

女たちが、五十五、六に踏んだのも、無理はないと思われるほどの老けかただった。

 枕元に立てた線香の煙が、ふいと耕助の鼻をくすぐる。その線香の匂においと、山峡の

しめった秋の空気の匂いが金田一耕助の胸に感傷的な波紋をかき立てる。

 この女も玉虫伯はく爵しやくの別荘へ、手伝いにゆきさえしなかったら、もっと別の生

きかたをして来たのにちがいない。その夏のある一日の出来事こそ、悪魔の爪つめのよう

に彼女の生涯をひきさいたのだ。

 玉虫伯爵の別荘で、手て籠ごめ同様に自由にされて、身み籠ごもらされて、そしてお小

さ夜よという娘を産んだ。そのことがこの女のそれからのちの生涯を、まっ暗な影で押し

つつんだばかりか、あげくの果てにはその命まで、奪う羽目になったのだ。

 金田一耕助はなにかしら、じりじりするような焦しよう躁そうと憤りの思いが、胸の底

からこみあげてくるのを感ずる。

 だが、この女の命をうばったのは、ただそれだけの事実のためであろうか。いやいや、

そうは思われぬ。この女はもっとほかの、より重大な秘密に関係があったのだ。そして、

その秘密のために命をおとす羽目になったのにちがいない。しかし、その秘密とは……?

 金田一耕助は仏の小さな、剃りこぼった頭を見ているうちに、またじりじりと焦こげつ

くような焦躁と憤りの思いにかられてくる。

 犯人がどのような危険を冒おかしてでも、この女の口をふさごうとしたところを見る

と、それはよほど重大な秘密にちがいない。いったい、あの小さな頭のなかに、この女は

どのような秘密をいだいていたのか……。

「それじゃ、わたしはこれでかえりますがね。死体のほうはどうします」

 岩屋から来た医者が、鞄かばんをしまいながら立ちあがった。

「いまに自動車くるまがくるはずですね。岩屋へ持っていって解剖することにしましょ

う」

「そう、それじゃ後程」

「現場写真やなんかは……?」

 出川刑事が訊ねた。

「いや、それはもうさっきやっちまったんです」

「そう、それじゃ、そこいらに手をつけてもよござんすね」

「ええ、どうぞ」

 土地の警察のひとたちは、好奇的な眼をかがやかせて、出川刑事の活動ぶりをながめて

いる。出川刑事の眼をつけたのは、押し入れのまえにきちんとたたんで積んである新聞

だった。妙海尼は、きちょうめんな性質だったと見えて、古新聞をきちんと四つにたたん

で、古いのを下に、日付の順にたたんである。出川刑事はうえから順にそれを見ていった

が、すぐ土地のおまわりさんを振りかえって、

「この尼さん、何新聞をとっていたかわかりませんか」

 おまわりさんは障子をひらいて、濡れ縁の外にむらがっている土地のひとたちに訊ねて

いたが、すぐ障子をしめると、

「K新聞やそうです」

「そう、だいたいその新聞ばかりですね。ところで金田一さん」

 と、出川刑事は耕助のほうを振りかえって、

「十月一日の新聞にかぎって、神戸大阪の新聞が七種類、二日三日の新聞も三種類ありま

すよ」

 出川刑事と金田一耕助は、しばらくじっと眼を見交わしたまま立っていた。


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