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第二十一章 風神出現(3)
日期:2023-12-07 16:32  点击:230

 一彦はうつむいたまま、肩をぶるぶるとふるわせている。額にねっとりと脂あぶら汗あ

せをうかべて、餉ちやぶ台だいの下で拳こぶしを握ったり開いたりしていた。

「伯父さま!」

 美禰子がそばから憎悪にみちた金切り声をあげた。

「伯父さまこそ伯母さまの財産を全部おつかいになって、まだそのうえに、そんなことを

おっしゃってもよろしいんですの」

「何を!」

 妻のはげしい視線にあって、へどもどしかけていた利彦は、それを聞くと急に憎々しげ

な視線を美禰子にむけると、

「女房の財産を亭主がつかうのは当然の権利じゃないか。それより美禰子、おまえこそ泥

棒だぞ」

「なんですって!」

「そうさ、泥棒さ。当然、おれの貰もらうべき財産を、おまえのお母さんが貰ったんだ。

お母さんが亡くなれば、おまえがその財産をとるんだろう。そうなればおまえはおれの財

産を、横よこ奪どりするのも同じことじゃないか」

「あなた、あなた」

 たまりかねて華子があいだに割って入った。

「そんな失礼なことを。……美禰子さん、堪忍して。伯父さまはちかごろ少しいらいらし

ているもんですから。あなた、今夜はきっとあたしが工面してまいりますから、そんなに

いらいらおっしゃらないで。……」

 美禰子の眦まなじりは怒りのために、張り裂けんばかりである。しかし、彼女はもうこ

れ以上、この賤いやしい伯父と諍あらそう気持ちはなくなっている。彼女は満身の憎悪と

軽蔑をこめた一いち瞥べつを利彦の額にくれると餉台のそばから立ちあがった。

「一彦さん、そろそろ出かけましょう。もう七時よ」

「ああ」

 一彦は力なく立ち上がりかけて、思い出したように、

「お母さん、いってまいります」

 と、餉台に手をついて頭をさげたが、父には挨あい拶さつもせずに美禰子のあとを追

う。

 利彦はしかし、いま美禰子と醜い諍いをしたことも忘れたように、けろりとした顔で、

「華子、それほんとかい。今夜工面をしてくれるというのは……」

「はい、きっとなんとかしてまいります」

「出来るかい、おまえに……?」

「なんとかなるだろうと思います」

「なるだろうじゃ困るぜ。きっとなんとかしてくれなくちゃ……」

「はい」

「そう、それじゃ早くいって来てくれ。晩おそくなると物騒だから」

「はい。でも……」

「でも……? どうかしたのかい?」

 利彦の声がまたとがってくる。

子さまがお淋さびしかろうと思って……。お信乃さんも目賀先生もお出かけですし、三

島さんもまだ帰らないようですから」

子のお守りぐらいならおれにだって出来る。三島はどこへいったんだ」

「明日の初七日の準備に奔走しているんです。ものの不自由な時代ですから」

「そう、それじゃ間もなく帰るだろう。お種だっていることだし、心配はいらん。早く

いって来い」

 日ひ頃ごろはちょっとでも家をあけると、がみがみいう良おつ人とだのに、勝手なとき

にはせき立てるようにいうのである。華子は溜ため息とともに立ち上がる。諦あきらめ

きっていても、やはり溜め息が出るのである。

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