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第二十一章 風神出現(5)
日期:2023-12-07 16:32  点击:248

「あら、どなたかいらっしゃいますの」

「門の外に刑事さんがいらしたので、ついて来ていただいたのです。お種さん、あんたも

いっしょに来ておくれ。あたし、なんだか怖いから……」

「まあ、ばあや様、どうかなすったのでございますか」

 日ひ頃ごろめったに取り乱したところを見せたことのないこの信乃が、妙におびえてい

るので、お種はもうそれだけで、膝ひざ頭がしらががくがくふるえる感じだった。

「なんでもいいから、あたしといっしょに来て……」

 信乃はコートもぬがずに、長い廊下を走っていく。お種もそのあとからくっついていっ

た。 子の居間のまえまでくると、なかから、

「だあれ、お種?」

 と、例によって 子の甘ったれた声である。

「ああ、 子さま」

 信乃はがっくりしたように吐息を吐いて、障子を開くと、 子は机にむかってお習字をし

ている。 子はこういう女だが、たいへん字が上手で、退屈なときにはいつも手習いをする

のである。

「まあ、信乃だったの。思いのほか早かったわね。及川の伯母さまの御用ってなんだった

の」

「 子さま、それが妙なのでございますよ。及川さまでは電報など打ったおぼえはないと

おっしゃるんでございますよ」

「まあ!」

 お種の声に気がついて、信乃がうしろをふりかえった。

「ああ、お種さん、あんたもうあっちへいってていいわ。そうそう、刑事さんに、何も異

常はございませんでしたと断わって来ておくれ」

「はあ」

「あ、ちょっと、お種や」

 子が呼びかけたので、お種は立ちかけた膝をまたおろした。

「菊江さんがかえって来たら、こっちへ来るようにいってね。お芝居の話を聞きたいか

らって、あたし惜しいことしたわ。切符持ってたのに……」

「承知いたしました」

 障子をしめようとするお種の眼に、ふとうつったのは奥の間に敷いてあるふたつの寝床

である。お種はそれを見ると思わずあかくなる。 子と目賀博士は、ちかごろではもう公然

と、夫婦の生活をしているのである。

 玄関へ出て、刑事にひきとってもらって、戸締まりをしようとしているところへ菊江が

かえってきた。

「お種さん、何かあったの。いまここから出ていったの、刑事じゃない?」

「ええ、でも別に……そうそう、菊江さま、奥さまがお待ちかねでございます。お芝居の

お話をお聞きになりたいんですって」

「そう。でも今日の芝居、面白くなかったわ。菊五郎がすっかり元気ないんですもの」

 そこへまた足音が聞こえてきたので、お種がしめかけた戸を開くと、かえって来たのは

目賀博士である。博士はなんだかひどく御機嫌ななめで、そうでなくとも蟇がま仙人のよ

うな顔が、いよいよ蒼あお黒ぐろくものすごい。

「あら、先生、どうかなすって? ひどく御機嫌ななめじゃないの」

 博士はぎろりと菊江を見て、

「これがぷりぷりせずにいられよかい。すっかり誰かにかつがれてしまった」

「かつがれたって?」

「横浜まで出向いていくと、会はやっぱり明後日だといいくさる。腹が立って腹が立って

たまらんから、かえりに友田のところへよって怒鳴りつけてやったら、友田のやつ、そん

な電話をかけた覚えはないとけろりとしてやあがる」

「まあ!」

 お種ははっと胸のとどろくのを覚える。信乃を呼び出したのも贋にせ電報だったらし

い。そしていままた目賀博士も。……

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