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第二十一章 風神出現(6)
日期:2023-12-07 16:32  点击:232

 博士は急に気がついたように、

「お種、留守中べつに変わったことはなかったかい」

「いいえ、べつに……」

「それならええが。それにしても、くそっ、胸くその悪いこっちゃ」

「まあまあ、先生、奥へいきましょう。奥さまの顔を御覧になれば、いっぺんに御機嫌が

なおりますわ」

 博士の腕をとって奥へいく菊江のうしろ姿を見送って、お種は溜め息をついた。

 お種は菊江が好きではない。好きではないというより嫌っている。しかし、この女の魅

力をみとめないわけにはいかなかった。菊江がいることによって、家のなかはぱっと明る

くなるのである。

 奉公人溜まりへかえってきて、不思議な電話の話をすると、東太郎もびっくりして眼を

まるくした。

「それで、お種さん、ほんとに留守中、何もかわったことはなかったの?」

「ええ、だからおかしいのよ。あたし、なんだか怖こわくなったわ。三島さん、あんた戸

締まりを見てまわってくれない?」

「よし」

 しかし、その戸締まりにも異常はなかった。十時過ぎに美禰子と一彦がかえってきたの

で、お種が玄関でその話をすると、ふたりともひどく驚いていた。

「それで、何もかわったことはなかったのね」

「そうなのでございます。それですから、いっそう気味が悪くって……」

 美禰子はいかつい顔をして、しばらく考えていたが、やがて肩をゆすると、

「いいわ。その話はまた明日考えてみましょう。今夜は、もうおそいから、一彦さん、お

引き取りになって。お種、もうみんな帰ったのでしょう。それなら戸締まりをして、あな

たもお休みなさい。あたし、もうお母さまに御ご挨あい拶さつせずに寝るわ」

 お種がもう一度戸締まりを見てまわって、部屋へさがって寝ようとしているところへ、

勝手口をたたく音がした。お種はぎょっとして、

「どなた?」

 と、声をふるわせる。

「あたし、華子よ」

「あら、奥さま。どうかなさいまして」

 解きかけた帯をあわてて締めなおして、勝手口の戸を開くと、華子が蒼あお白じろくひ

きつったような顔をして立っている。

「お種さん、うちのはこっちへ来ていません?」

「いいえ。あちらにいらっしゃらないのですか」

「ええ。何時ごろまでこちらにお邪魔していたんでしょうか」

「あれから奥様のお部屋で、十五分ほどお話しになって、それからあっちへお帰りになっ

たようでございましたが……」

「そう。どこかへ出かけるようなこと、いってませんでしたかしら」

「さあ、奥さまにお伺いしてまいりましょうか」

「いいえ、いいの、いいの。そのうち帰ってまいりましょう。お邪魔しました。では、お

休みなさい」

「お休みなさいませ」

 勝手の戸締まりをしながら、お種はふっと心が暗くなる。

 あの顔色ではきっと金策がうまくいかなかったのだろう。御主人にまたどんな厭いや味

みをいわれることか。……

 枕まくらに頭をつけたものの、お種はなかなか寝つかれず、何度も何度も寝返りしてい

たが、急にぎょっとして寝床のうえに起きなおった。

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