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第二十一章 風神出現(7)
日期:2023-12-07 16:33  点击:239

 だしぬけに、けたたましい女の悲鳴が聞こえてきたからである。それにつづいて荒っぽ

い男の罵ば声せいと、どすんばたんと組討ちをするような音。その合間合間に絶えいるよ

うな女の泣き声。

 奥様のお部屋からだ!

 お種が寝間着のうえにあわてて着物をひっかけているとき、誰かが廊下を走って、 子の

部屋にとびこむ音がした。信乃らしかった。どすんばたんという音はなくなったが、男の

罵声と女の泣き声はまだつづいている。

 お種は怖わごわ 子の部屋のまえまでくると、むこうから東太郎もやってきた。

「どうしたの」

「さあ、なんですかしら」

 ふたりが耳をすましていると、

「この阿あ魔ま、この阿魔!」

 ぜいぜいと肩で息をするような声は目賀博士である。

「先生、まあ、先生、そんな手荒な真ま似ねを……なんぼなんでもそんな馬鹿なことが。

……」

 信乃が何かを取りなしているらしい。ヒイヒイと子供のように泣いているのは 子であ

る。

「いいや、いいや、きっとそうじゃ。それにちがいない。こいつが、このふんばり阿魔が

誰かと打ち合わせて、わしとおまえさんをおびき出しよったんじゃ。そして、そして、そ

の留守中に。……」

「ああ、先生、先生、そんなこと奉公人に聞こえたらどうするんです。何かの思いちがい

ですから、もう堪忍してあげてください」

 そのとき、お種と東太郎はとつぜんうしろから突きのけられて、ぎょっとしてふりか

えった。いつの間に来たのか、美禰子が真まっ蒼さおな顔をして立っている。瞳めが怒り

にふるえていた。

 美禰子はふたりに眼もくれず、いきなりさっと障子を開いた。

 奥の間だけに灯あかりがついていて、半分ひらいた襖ふすまのあいだから、目賀博士が

子の髪をひっつかみ、ぎゅうぎゅうと寝床のうえに押しつけているのが見える。博士はタ

オルの寝間着、 子は派手な長なが襦じゆ袢ばん、どっちもひどく着くずれて、うつぶせに

なって泣いている 子の肉付きのいい肩が、大きく長襦袢から露出している。信乃の姿は、

襖のかげになって見えなかった。

「どうしたんです。それは……」

 縁側に立ったまま、美禰子の声は凍りつくように冷めたかった。

 その声に目賀博士がぎょっとこちらをふりかえり、信乃の顔が襖のかげからのぞいた。

信乃はいそいで目賀博士に耳打ちすると、こっちへ出て来てあいだの襖をしめる。

「なんでもないのよ。美禰子さん。先生は今夜は御機嫌が悪いんです。贋にせ電話にだま

されたもんだから。……さあ、あっちへいってお休みなさい。あとはあたしがよく取りな

しておきますから。……」

 美禰子はしばらく怒りにもえる眼で、信乃の顔をにらめつけていたが急にくるりと踵き

びすをかえすと、ものもいわず小走りに走っていった。

 信乃は障子をしめようとして、お種と東太郎の姿に気がつき、

「まあ、あんたたちもここにいたの。馬鹿ねえ。なんでもないんだから、早くむこうへ

いってお休み、お休み」

「すみません」

 東太郎とわかれて、お種が部屋へかえってきたのは十二時ちかくだった。

 そしてそれから一時間ほどのちに、椿つばき邸ていのひとびとは、また、あのまがまが

しいメロディーによって夢を破られたのである。

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