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第二十二章 指輪(4)
日期:2023-12-11 13:05  点击:290

「それはわかっています。成城の砧きぬた郵便局、その電報を受け付けた局員もわかっ

て、その男もその電報を受け付けたことはおぼえているんですが、さて発信人がどんな人

物だったかということになると、そこまでは記憶がないというんです。それでも、いまそ

の人物にあったら思い出すかも知れないというので、昨日の昼過ぎここへつれてきて、椿

子し爵しやくの写真を見せたり、家人にあわせたりしたんですが、みんな違うというんで

すね。というわけで、いまのところ、電報のほうからも、なんの手がかりもつかめないわ

けです」

「なるほど」

 耕助はだまって爪つめをかみながら、伏し目がちにしばらく考えこんでいたが、やがて

顔をあげると、

「ときに五日の朝一時ごろ、聞こえてきたというフルートの音、こんどもやっぱりレコー

ドだったそうですが、それについて御説明願えませんか」

「いや、それについちゃ、ひとつ現場へ出かけて見ようじゃありませんか。死体のほうは

昨日の朝、解剖のために運び出したが、あとはまだそのままにしてありますからな」

 無言のままうなずいて、金田一耕助がものうげに立ちあがったところへ、表のほうに自

動車がとまった。解剖をおわった新宮利彦の死体がかえって来たのだ。奥のほうからバラ

バラと、家人がとび出してくるのと入れちがいに、警部と金田一耕助は、庭へ出ると温室

のほうへやってきた。

 温室のなかには刑事がひとり、棚にならんだ珍奇な植物を、ひとつひとつのぞいてい

る。

 警部と金田一耕助は段をおりてドアをひらくと、くぐるように身をかがめて、温室のな

かへ入っていった。

 刑事はふたりに敬礼すると、ちょっとわきへよったが、あいかわらず珍しそうに、天井

からぶらさがった植物の鉢をのぞいている。

「あそこに被害者の死体が、首に棕しゆ梠ろ縄なわをまきつけたまま横たわっていたんで

すがね」

 と、警部は温室の奥まった土間を指さすと、それから入り口のすぐ左側の棚を指さし、

「ほら、そこに電気蓄音器、それからスウィッチがある」

 と、ドアの横の柱を指さした。

 なるほど、ドアの左の棚のうえに、中古の電蓄がおいてあり、そのコードが、ふたつあ

る電気のひとつにさしこまれていることは、まえの章でもいったとおりである。

「つまり犯人はその電蓄にレコードをかけ、むこうの電気のスウィッチを切っておいて、

電蓄のスウィッチを入れ、さらに、この柱についているスウィッチを入れたんですね。そ

こでレコードが回転をはじめ、くらがりのなかでフルートが鳴り出したというわけです」

「すると、フルートが鳴り出したときには、犯人はここへ来ていたわけですね」

「ところがそうもいかんのです。このスウィッチの親スウィッチが、椿つばき邸ていのな

かにある。だから、その親スウィッチを切っておけば、こっちのスウィッチを入れても電

蓄は回転しない。そうしておいて、適当なときに親スウィッチを入れれば電蓄が鳴るとい

うわけで、だからひょっとすると椿邸にいる誰かが、いながらにしてこのメカニズムを操

作したのかも知れず、そうでないとすれば、いまあんたがいったとおり、誰かがここへス

ウィッチを入れに来たわけです」

 金田一耕助はふっと大きく眼を見はった。そして、ゆるく頭をかきまわしながら、

「なるほど、なるほど、そしてその親スウィッチが切ってあったか、入れてあったか、誰

も知っているものはいないんですね」

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