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第二十三章 指(3)
日期:2023-12-11 13:10  点击:229

 金田一耕助はだまって考えこんでいたが、やがてものうい眼をあげると、

「警部さん、さっきあなたのお言葉では、玉虫伯爵や新宮さんを殺したのは、椿子し爵し

やくにちがいないとおっしゃいましたね。なるほどこの事件の裏面には、椿子爵もしくは

椿子爵に極似した人物が彷ほう徨こうしていることはたしかなようです。しかし、玉虫伯

爵の場合はともかくとして、四日の夜の新宮さんの事件にはそいつが関係しているかどう

か。……たれかそれらしい姿を見たひとがあるんですか」

 警部は陰いん鬱うつな表情で首を左右にふる。いくらか憤りさえこもった首のふりかた

だった。金田一耕助は溜め息をついて、

「ぼくの考えるにはねえ、警部さん、四日の夜、そいつは東京にいなかったんじゃないか

と思うんです。なぜって、四日の朝、そいつは神戸にいたんですからね」

 警部はびくっとしたように眉まゆを動かした。そして物問いたげな眼で、耕助の顔を見

おろしている。耕助も無言のままうなずきながら、

「そうなんです、四日の朝の九時半ごろ、そいつは神戸のあるところへ現われているんで

す。それからすぐに汽車に乗ったとしても、ちかごろの列車のこの状態じゃ、七時半まで

にここへ到着出来たかどうか、いや、それよりもぼくの考えじゃそいつはある女を探しも

とめて、まだ神戸をうろついているんじゃないかと思うんですがね」

「話してください、金田一さん」

 警部は急に熱のこもった声になり、

「それがあっちのほうの調査の結果なんですね。あっちのほうでも殺人が行なわれたとい

う報告はとどいているんですが、それじゃ、それにも椿子爵、もしくは椿子爵とおぼしき

人物が関係しているんですね」

 金田一耕助はうなずいた。それから、要領よく神戸から淡路にわたっての調査の結果を

報告した。聞くことごとに、等々力警部のおどろきは深まるばかりである。金田一耕助は

語りおわると、

「いずれ出川刑事から、もっと詳しい報告が来ると思いますが、ぼくのお話しできること

は以上のとおりです。これを要するに新宮さんがその昔、玉虫伯爵の別荘で、おこまとい

う女を犯してはらませた。そのことが今度の事件に大きく尾をひいているらしいんです

が、しかし、ただそれだけではないと思う。そのほかに、何かもっと大きな、暗い影がそ

のころ胚はい胎たいしてるんじゃないかと思うんですが、それがなんだかわからない。そ

して、それさえわかれば……」

 金田一耕助は熱っぽい眼をきらりと光らせたが、急に気をかえるように、

「しかし、警部さん、そのことはいましばらく、忘れていることにしましょう。出川刑事

から、もっと詳しい報告がとどくまでは。……それよりもいまの場合、指輪のことをもう

少し、詳しく追究していかれたら……? 秌子夫人にそのことを訊きいてみられた

ら……?」

 警部はうなずいて部下を呼ぶと、秌子夫人にこちらへ来ていただくようにと命じた。

 刑事が出ていったあと耕助は、椅い子すにのめりこむような格好で、ぼんやりとテーブ

ルのうえを凝視している。そこには温室から発見された、風神の像がおいてある。

 それは玉虫伯爵の殺人のさい発見された、雷神の像と一いつ対ついをなすものだけあっ

て、大きさはほとんど変わらなかったが、こうしてテーブルのうえにおいて、妙に安定を

欠いているのは、台座の下部がすこし切りとってあるからである。

 金田一耕助はさっきから、そのことに非常に興味をおぼえているのだ。

 誰かが台座の下部を輪切りにしたのだ。しかも輪切りにされた部分を、もういちど台座

にくっつけたらしく、そこにある風神像の底部を見ると、かすかに膠にかわがついてい

る。輪切りにされた部分は、おそらく直径三寸、厚さ三、四寸くらいの円盤だったろう

が、たれがなんのためにそんなものを切り落としたか、切り落としたあとでまたくっつけ

たか。そして、また、温室のなかで発見されたときには、どうしてその部分だけ、取りは

ずされていたのか。……

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