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第二十三章 指(5)
日期:2023-12-11 13:10  点击:231

 しかし、なにかしらそこに欠けているものがあった。奥歯にもののはさまったような、

あるいは靴をへだてて痒かゆきを搔かくような、なにかしら、もどかしさを感じずにはい

られなかった。

 この女はまだすっきり泥を吐いていない。しかし、この女にそれを吐かせることは、雄

鶏に卵をうませるよりも困難なことにちがいない。

「いや、有難うございました。それではちょっと、目賀先生にこちらへ来ていただくよ

う、おつたえ願えませんか」

 信乃はまたギロリと耕助をにらむと、

「お断わりしておきますが、目賀先生もあの贋電報や贋電話が、新宮さんのしわざだとい

うことは御存じですよ。わたしどもよく話しあったあげく、それにちがいないときめたん

ですから」

 それから、信乃は姿勢をただし、堂々として応接室から出ていった。

 目賀博士が現われるまでに相当ひまがかかったのは、おそらく信乃と打ちあわせをして

いたのだろう。

 目賀博士は例によって、蟇がま仙人のような顔に、不敵な微笑をうかべながら、

「どういう御用件じゃな。あの贋電報や贋電話のことなら、だいたい、お信乃さんのこた

えでつきていると思うがな」

 金田一耕助はものうげな眼をして、

「いや、先生にお訊たずねしたいのはそのことじゃないのです。先生はあの晩奥さんと、

寝床へお入りになってから大おお喧げん嘩かをされたそうですね。そのとき、おっしゃっ

た先生のことば……おまえが誰かと打ちあわせて、わしとお信乃をおびき出したんだ。そ

して、その留守中に……と、おっしゃったようですが、その留守中に奥さんが、どうした

とおっしゃりたかったんですか」

 耕助の眼にじっと視みつめられて、蟇仙人の不敵な面に、ふいと不安な色がうかんだ。

それによって耕助は、この質問が問題の核心をついているのだと知った。しかし、相手も

さるものである。すぐに人を食ったような微笑を取りもどすと、

「あっはっは、なんだと思えばそのことか。これは何度もいうとおり、そんなことをいっ

たかどうか覚えはないが、いったとすればこうだろう。じつは、指輪のことをいいたくな

かったので、いままでかくしていたのだが、わしは寝床へ入ってから、あれの指から指輪

がなくなっていることに気がついたのじゃ。それを問いつめているうちに、あいつの返事

がだんだん怪しくなってきたので、さては新宮さんにやったのだと気がつくと同時に、あ

の贋電話も新宮さんのしわざだったにちがいないと思いあたった。そこで思わずかっとし

……なにしろ、あの贋電話には、すっかり腹を立てていたもんだからな」

「しかし、それじゃ奥さんが誰かと打ちあわせて……と、いうことにゃならないじゃあり

ませんか」

 蟇仙人のおもてに、またかすかに不安の色が走った。しかし、すぐにそれをたからかな

笑い声で吹きとばすと、

「だから、自分でも何を口走ったか覚えてはおらんといっている。きっとむしゃくしゃ腹

で、八つ当たりをしていたんだろう。おまえさんでも騙だまされて、いまどきの電車にも

まれて、横浜くんだりまでつれ出されてごらんなされ。どんなに腹が立つことか」

「先生には、奥さんが新宮さんに指輪を用立てられたということが、そんなに腹の立つこ

となんですか」

 蟇仙人はまたぎょっとしたように耕助の顔色を読んだ。

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