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第二十三章 指(7)
日期:2023-12-11 13:11  点击:264

 最近のこの家における菊江の存在こそ、まことに奇妙なものであった。玉虫伯爵が亡く

なった現在、この家にとって彼女はまったく縁なき衆しゆ生じようも同様である。それに

もかかわらず、この家のひとびとが彼女に格別つめたい素振りも見せないのは、貴族の鷹

おう揚ようさもあったのかも知れないけれど、それよりもみんながこの女の存在を必要と

していたからなのだ。

 実際、この女が、いけしゃあしゃあとまき散らす、コケットリーな空気の救いがなかっ

たら、事件の重圧におしつぶされて、みんな窒息していたかも知れない。

 金田一耕助はこの場合、とくに強くそれを感じた。

「どうなすったの、先生、いやに深刻な顔をしていらしたわね。またデッド・ロックに乗

りあげたってわけ」

 不機嫌そうに渋面をつくっている警部のほうをわざと無視して、菊江は金田一耕助をか

らかいにかかる。

「あっはっは、デッド・ロックには、はじめから乗りあげてますよ。デッド・ロックまた

デッド・ロックというわけでね」

 耕助はいくらか生気を取りもどしたらしい。そんな軽口が口からとび出す。

「ところで、ちょうどいいところでした。あなたにもお訊たずねしようと思っていたとこ

ろなんですがね」

「はあ、どんなことですの。四日の晩のアリバイなら、もう口が酸っぱくなるほど申し上

げましたけれど……」

「いや、そのことじゃないんです。じつは秌子奥さまの指輪のことなんですがね」

 警部は不思議そうに耕助の顔を見る。指輪のことならお信乃と目賀博士の陳述で、だい

たい、かたがついているはずなのである。

「はあ、あの指輪のこと。あの指輪はやっぱり奥さまが新宮さんにまきあげ……いえ、あ

の、差し上げてたんですってね」

「やっぱり……?」

 金田一耕助は菊江の顔を見直した。

「やっぱりというのはどういう意味ですか。じゃあなたはあの指輪がなくなっていること

に、気がついていたんですね」

「ええ、気がついてましたわ」

「いつごろから……?」

「あの晩、四日の晩……あたし東劇からかえって来て、奥様のところへお伺いしたでしょ

う。そのとき、奥様の指から指輪がなくなってることに気がついたんです」

「なるほど、やっぱりあなたは女ですね」

「あら、それはどういう意味ですの」

「だって目賀博士やお信乃さんは、ずっとあとまで気がつかなかったのに。……」

「まあ!」

 菊江は急に眼を見張って、

「あのひとたち、そんなふうにいってるんですの。変ねえ」

「どうして?」

「だってあのひとたちも気がついてたのよ。いいえ、あのひとたちが、あたしに教えてく

れたようなものだわ。あたしお芝居の話をしてましたのよ。すると目賀先生とお信乃さん

が、しきりに妙な眼配せをしていらっしゃるの。あたし、はじめなんのことだかわからな

かったんだけど、おふたりの視線が、かわるがわる奥様の指にいくもんだから、それで、

はじめてあたしも気がついたんですもの。だけど、困ったわ。こんなこといっちゃいけな

かったのかしら」

 警部の顔にふと好奇的な色が動いた。警部ははじめて耕助が、たくみにかまをかけてい

るのだということに気がついたのである。

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