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第二十四章 a=x,b=x,∴a=b(1)
日期:2023-12-11 13:12  点击:292

第二十四章 a=x,b=x,∴a=b

 新宮利彦の殺人事件があってから、椿つばき家けに第三の殺人事件が起こって、それを

機会にすべての秘密が明るみへ出て、事件が急速に解決におもむくまでには、またしても

数日の休止期間があった。

 だが、この休止期間といえども、なにもかも一切が休止していたわけではない。表面さ

りげない、ごく些さ細さいな動きのなかにも、解決への気運は着々として芽生えつつあっ

たのだ。

 ここではこの休止期間中に起こった、一見なんでもないように見えながら、あとから思

えば事件解決の重要なポイントとなった、二、三の動きを捕ほ捉そくしてみよう。

 その日、椿邸を辞するとき、金田一耕助はなにか深く思いしずんだ様子で、警部にむ

かってこんなことを訊たずねた。

「ときに警部さん、天銀堂事件のほうは、その後どうなっているんですか」

「あのほうも、もちろんやってますがねえ。一時あっちのほうはわたしの係りじゃなく

なったんですが、今度またこっちの事件にこんがらがって来たでしょう。それで目下、二

本立てでやってるんですが、どっちも難しい事件でねえ」

 警部は眉まゆをくもらせた。

 金田一耕助はまたなにか思い惑うふうだったが、やがて思いきったように、

「あの事件が起こった当時、かなり多くの容疑者があげられたでしょう。ほら、あの、モ

ンタージュ写真に似ているというので。……椿子し爵しやくなんかもそのひとりだった

が……」

「ええ、そう、なかにはてっきりこいつと思ったやつもあるんですが、肝かん腎じんの極

め手がなくって、そのままになってるのもありますがねえ」

「それらの容疑者はその後どうなっているんですか。監視でもつけてあるんですか」

「それが理想なんですがねえ、なかなかそういうわけにはいかないで……なんしろ予算も

ないし、人手も足りないし、……こういうと逃げ口上のようだが。……」

 警部は暗い顔をした。

「ねえ、警部さん。どうでしょう、ここでもう一度、それらの容疑者の行動を洗ってみた

ら……いえ、一月までさかのぼる必要はないんです。椿家の事件が起こって以来の行動で

いいんですが……」

 警部はびっくりしたような眼で耕助の顔を見る。

「金田一さん、それはどういう意味ですか」

 金田一耕助はいくらか極まり悪げな微笑をうかべながら、

「警部さん、嗤わらわんでくださいよ。ぼくはいまごく初歩の代数の定理の妄想にとりつ

かれているんです。御存じでしょう。a=x, b=xならば、したがってa=bという法則を……」

「それが、どうしたんですか」

「いいえねえ。椿子爵はXなるモンタージュ写真に似ておられた。ところがあのモンター

ジュ写真に似ている人物はほかにも幾いく人にんかあった。するとモンタージュ写真Xに

似ている椿子爵は、同じく似ているべつの人物Bにも似てやしないかと思うんです」

「金田一さん」

 警部はとつぜん大きく喘あえいだ。

「そ、それじゃあんたはこの事件のかげに躍おどっている、椿子爵らしい人物を、それら

の容疑者のひとりだとおっしゃるんですか」

「いや、そうはっきり断言出来るわけではありません。第一、あれがほんものの椿子爵な

のか、にせものなのか、それからしてまだはっきりしないのですからね。しかし、もしあ

れがにせものだとして、誰かが替え玉を使ってるのだとすると、ちょっと問題が面白く

なってくる。替え玉なんてものはそう容易に見つかるものじゃありませんからね。ところ

が椿子爵の場合には、お誂あつらえむきにあのモンタージュ写真というやつがあった。警

部さん、あのモンタージュ写真は、こんどの事件の犯人のために、椿さんに似た人物を、

日本中から募集してやったみたいな結果になってるのかも知れませんよ。あっはっは」

 警部は思わず両の拳こぶしをつよく握りしめる。なにかしら、自分でも説明出来ない怒

りの感情が、肚はらの底からこみあげてくるのをおぼえるのである。

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