行业分类
第二十五章 アクセントの問題(2)
日期:2023-12-11 13:38  点击:289

 一通は出川刑事からの手紙だったが、あとの一通は岡山県の警察本部に勤務している磯川警部からであった。

 金田一耕助が須す磨ま市の三春園に滞在中、岡山の磯川警部にあてて手紙を書いたということは、まえにもちょっと書いておいたが、耕助がちかごろ、首を長くして待っていたというのは、それに対する返事であった。

 耕助は、いそいでその封を切ると、ひといきにそれを読みくだした。読んでいくうちに、読書につかれた眼がいきいきとかがやいて呼吸がすこしはずんでくる。二、三度それを読みなおしたのち、今度は出川刑事の手紙をひらいたが、それを読んでいくうちに、耕助の眼はいよいよ異様な熱をおびてくる。昂こう奮ふんのために、手紙を持つ手がわなわなふるえて、髪の毛をひっつかんだ右手の指先の運動がしだいに速度をましてくる。

 出川刑事はとうとう植辰の妾めかけおたまを発見したのだ。そして、その口からある重大な事実を聞き出したのだ。

 耕助は、かわるがわる二通の手紙を読みなおすと、それを膝ひざのまえにならべて、まるで咬かみつきそうな顔色で考えこんでいたが、そこへ遠くのほうで電話のベルが鳴る音がして、いそぎあしに廊下をわたってくる足音がきこえた。

「金田一さん、お電話」

「どちらから……?」

「等と々ど力ろき警部さんからです。なんだか、とても昂奮していらっしゃるようですけれど……」 なにかまた事件が起こったのではないかと、耕助があわてて電話口へ出ると、等々力警部はただひとこと、芝しばの増ぞう上じよう寺じ境内へ来るようにとつたえたきり、そのまま電話を切ってしまったが、その言葉つきのきびしさから、なにかまた、容易ならぬ事件が起こったらしいことを思わせた。

 時計を見ると三時半。

 今夜は嵐あらしにでもなるのか、空は墨を流したように暗くくもって、吹きまくる風がしきりに砂さ塵じんをまきあげている。その風とたたかいながら、耕助が芝の増上寺にたどりついたのは、もうかれこれ五時。陰惨な黄昏たそがれの色のなかに、風はいよいよはげしく吹きつのっていた。

 境内へ入っていくと、警官の往来があわただしく、弥次馬にまじって右往左往する新聞記者の顔色にも、緊張のいろがきびしかった。

 耕助があしばやに進んでいくと、向こうに見えるひとだかりのなかから、等々力警部がひとり出て来て、こちらをむいて手招きしているのが見えた。そこは広い、境内でも、ことに淋さびしいところで、一年ほどまえにも、さる凶悪な変質者の殺人が行なわれた場所だった。耕助がちかづいていくと、警部がきびしい表情をして、人垣にかこまれた草のなかを顎あごで示した。耕助がのぞいてみると、深い雑草のなかに、猿さる股またひとつの裸体の男が倒れている。耕助は人垣をかきわけて、一歩まえへのり出したが、そのとたん、嘔おう吐とを催しそうな胸の悪さをおぼえて、思わず顔をそむけずにはいられなかった。

 じっさい、それはなんともいえぬ物もの凄すごい死体だった。顔といわず、手足といわず、いちめんに咬かみ裂かれて、腹部からはみ出した臓ぞう腑ふがぞっとするほどむごたらしい。

 ことにひどいのはその顔で、故意にか、偶然にか、めちゃめちゃに毀き損そんされたその顔は、ほとんど相好の識別もつかぬくらい、無残な肉塊になっている。

「誰ですかこれは……?」

 金田一耕助がおしひしゃがれたような声で訊たずねた。警部はむずかしい顔をして、

「まだ、誰ともはっきり断定は出来ません。しかし、ひょっとすると、いまわれわれが血ち眼まなこになって探している人物じゃないかと思われる節があるんです」

 警部の声は沈痛をきわめていた。

小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/22 23:29
首页 刷新 顶部