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第二十五章 アクセントの問題(4)
日期:2023-12-11 13:40  点击:322

「ときに、話というのは……?」

「これですがね。ちょっと読んで見てください」

 耕助が取り出した封筒の差し出し人の名を見ると、等々力警部はふしぎそうに眉まゆをひそめたが、やがてなかみを引き出して、何気なく眼を通しはじめた。しかし、ものの二、三行も読まないうちにぎくっと体をふるわせて、弾かれたように耕助のほうをふりかえった。そして、何か物問いたげな眼で、まじまじと耕助の顔を見ていたが、すぐまた急いで、食い入るようにあとを読みはじめる。

 等々力警部をそれほどまでに驚かせた、磯川警部の手紙のなかから、必要な部分だけをここに紹介しておこう。

 (前略)扨さて、お訊ねの三島東太郎の件につき、当方に於おいて調査した結果を、以下簡単に御報告申し上げ候。

 一、昭和十七年頃、岡山県立第×中学の教頭に、三島省吾という人物あり、妻女勝子とのあいだに東太郎なる一子ありしことは事実なるものの如し。

 二、三島省吾が椿子爵と親交ありしことは、かつての同僚の語るところにして、これまた事実なるべし。

 三、三島省吾は昭和十八年脳出血にて死亡。妻女勝子も昭和十九年、岡山市大空襲の際死亡。

 四、それより先、一子東太郎は広島の陸軍病院にて戦病死せる由。

  いずこも同じ戦災にて、この調査も完かん璧ぺきとは申しがたく候えども大体以上の事実に間違いはなかるべく、従っていまもし三島東太郎と名乗る人物が存在するとせば、それは同姓同名の別人か、あるいは贋にせ者ものに相違あるまじく、この段御賢察におまかせ申し上げ候(後略)

「なんだ、そ、それじゃ三島東太郎というのは贋者なのか」

 警部は満面に朱をそそいで、仁王様みたいな顔をしている。血管がおそろしくふくれあがっていた。

「そうらしいですね。同姓同名の別人ってことはないでしょう。椿子爵と親交のあった、岡山県の中学校の先生の息子だと、自ら名乗っているんですからね」

 警部は耕助の横顔を穴のあくほど視みつめながら、

「金田一さん」

 と、しゃがれた声で、

「あんた、どうしてそれを御存じだったんですか。あいつが贋者だということを……。この手紙はあんたの質問に対して答えて来たものらしいが……」

「いやあ、それは……」

 と、金田一耕助はゆっくり頭をかきまわしながら、

「アクセントの問題なんですよ」

「アクセントの問題……?」

「ええ、そう、いつかわれわれはあの男と温室のまえで出で遭あったことがあるでしょう。そのとき、あの男は、いま食虫蘭らんに蜘く蛛もをやってたところだといっていた。それからその直後に、母おも屋やのほうへかえる途中で、こっちの橋を渡っていったほうがはやいですよ。というようなことをいったんですが、問題はその蜘蛛と橋という言葉のアクセントなんです。あの男は、それが東京と、すっかり反対なんです。警部さんも御存じでしょう。蜘蛛と雲、橋と箸はしと端、炭と隅、そういう言葉のアクセントが、東京と上方では、あべこべになっているということを。……」

「うん、それは知ってる。しかし、あの男はあっちのほうのうまれだから……」

「ところが、それが違うんですよ。警部さん」

 と、耕助はゆっくりあたまの毛をかきまわしながら、

「蜘蛛と雲、橋と箸と端、炭と隅……それらの言葉のアクセントが東京とちがっているのは、上方といっても近畿地方に限るんです。これはぼくと同姓の言語学者に聞いたんですが、兵庫県から西、つまり岡山県へ入ると、それらの言葉のアクセントは、また東京と同じになるんです」 警部は大きく眼をみはった。

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