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第二十五章 アクセントの問題(6)
日期:2023-12-11 13:40  点击:299

 おこまと治雄は異母姉弟にあたるわけだが、年齢からいうと親子ほどもちがっているし、げんにおこまの娘の小夜子は、治雄とおなじとしだった。

 植辰の血からいうと治雄と小夜子は叔お父じと姪めいにあたっている、しかし、おこまの母と治雄の母はちがっているし、それに年齢的な関係もあって、ふたりは叔父と姪というような感情を持ちにくく、いつか恋仲になっていたのではないか。

 小夜子が自殺したのは昭和十九年の八月だが、治雄が兵隊にとられていったのはその年の六月のことだから、自殺したとき妊娠四か月としても、時間的に合わないことはない。

 小夜子がなぜ自殺したのか、おたまも知らない。

 しかし、ひょっとすると、小夜子が妊娠していること、そして、その相手が治雄だということを知って、おこまが驚きのあまり彼女を責めすぎたのではないか。おこまは古風な潔癖家だったから、叔父と姪とが関係したということについては、若い連中のようにルーズな考えかたではすまされず、小夜子を責め、その結果、小夜子を自殺せしめるにいたったのではないか。……おこまという女はそういう女だったとおたまはいうのである。

 なお、小夜子の相手を治雄ではないかと考えるには、おたまにはもうひとつの理由があった。

 去年の夏頃、当時まだ神戸の温泉旅館に奉公していたおたまのもとへ、復員して来たばかりの治雄が、ひょっこり訪ねてきたことがある。

 治雄はなによりもまず小夜子の消息を訊たずねたが、彼女が自殺したということを聞くと、おどろきのあまり、茫ぼう然ぜん自失せんばかりのありさまだった。さらに、自殺したとき、小夜子が妊娠四か月の身重だったということを話すと、治雄はほとんど気が狂いそうな眼つきになった。

 それから恐ろしい権幕で、なぜ小夜子が自殺したのかと問いつめてきたが、それはおたまにも答えることが出来なかった。おたま自身にもはっきりしたことはわからなかったからだ。

 そこでおこまに聞けばいいと、淡路に疎開しているおこまのところを教えてやった。治雄はそれを手帳にひかえていったから、きっとおこまのところへいったにちがいない。その後、おこまにも治雄にもあわないから、詳しいことはわからないが。……

 出川刑事の報告は、だいたい以上のとおりだが、最後にいたって、警部が思わず声を立てずにはいられないようなことが、書き加えてあった。

……その後、おたまはいちども治雄にあったことがなく、したがって治雄がいまどこで、なにをしているか一切知らないそうです。また、まえにもいったとおり、治雄はめったに植辰のもとへ寄りつかなかったので、おたまもかれの性質、ひととなりはよく知らないそうですが、ただひとつ、復員後の治雄のからだには、非常に大きな目め印じるしがある。治雄は戦傷のために、右の指を二本うしなっているというのです」

 その最後の一句が毒矢のように、警部の脳のう裡りをつらぬいた。

「治雄! 治雄……そ、それじゃ、いま三島東太郎と名乗っている男は、そのじつ、植辰の息子なのか」

 金田一耕助は暗い眼をしてうなずいた。

 嵐あらしはいよいよたけり狂って、自動車がときどき無意味な音を立ててきしんだ。救急車が死体をのっけて、あえぎあえぎ立ち去っていく。運転手がずぶ濡ぬれになってかえって来た。

「すみませんでした。どちらへやりますか」

「麻布六本木へやってくれ」

 警部は言下にこたえて耕助の顔を見る。

 耕助は無言のままうなずいた。

「しかし、金田一さん、あいつはなんだって、偽名を名乗って椿家へ入りこんでいるんだ」

「それはぼくにもわかりません。しかし、ふしぎなのはあの男が、偽名の対象として、椿子爵の旧友の息子をえらんだことです。植辰の息子が子爵の旧友を知っているはずがない。と、すると、これはむしろ椿子爵があの男に、旧友の息子の名をえらんで与えたのではないでしょうかねえ」

「椿子爵が……?」 警部はまた大きくあえぐと、

「しかし、子爵はなんだって……いや、それより子爵はいったいこの事件に、どのような役割をつとめているんです」

「警部さん、それはぼくにもまだわかりません。ただわかっていることは、おたまの話がすべてを説きつくしているのではないかということです。まだある。そこにはまだまだ、深刻な秘密があるにちがいない。……」

 金田一耕助はそれきり、しいんとだまりこんでしまった。 

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