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第二十六章 秌あき子こは何に驚いたか(2)
日期:2023-12-11 13:48  点击:260

「しかし、たったそれだけの人数が出かけるのに、こんな沢山荷物がいるんですか」

 金田一耕助はとがめるような眼で室内に積まれた荷物を見まわす。

「お母様は、いつも大おお袈げ裟さなことがお好きなんですわ」

 美禰子が例によっておこったような、しかし、いくらかすまなそうな声で答えた。一彦

はだまって荷物をいじっている。

「しかし、そりゃいかんよ。そ、そんなことは断じて許せませんよ」

 だしぬけに口を出したのは等々力警部である。警部の声は怒りにふるえている。

「当分、誰もこの家から動いちゃいけないということは、口が酸っぱくなるほどいってお

いたはずだ。せっかくだが、これは思いとまって貰もらいましょう」

「思いとまるもとまらんもありはせん。秌子はもう出掛けたがな」

「な、な、なんですって!」

「まあまあ、警部さん、そりゃあ、わしだって、いまの自分たちの立場はよう知っとる。

動いちゃあんたがたの迷惑になることはようわかっとる。だからとめたがな。口が酸っぽ

うなるほど、秌子にいいきかせたがな。しかし、なあ、警部さん、秌子には法も通らんの

じゃ。そのことは警部さんにもおわかりじゃろ。あれはな、法の外に住んでるんですわ

い」

「出かけたって、いつ……?」

 警部はやっと怒りをおさえる。

「つい、さっき、それでももう二時間にもなろうかな。よいあんばいに、嵐あらしがひど

うならんうちに、いきついたことじゃろうと思うていたところじゃが」

「出かけたのは秌子奥さんとお信乃さんと……?」

「女中のお種をつれていきおった」

「鎌倉のところというのは……?」

 美禰子がそれに答えるのを、警部が手帳にひかえているところへ、三島東太郎がスーツ

ケースをぶらさげてやってきた。

「目賀博士、スーツケースというのは……ああ、いらっしゃい。ちっとも存じませんでし

た」

 うすくらがりのなかに立っている、警部と耕助の姿を発見すると、東太郎もさすがに

びっくりしたらしく、あわてて頭をさげると、まえはだけになったシャツのボタンをはめ

た。

「ああ、それそれ、それでみんな揃そろったと、……。ところで三島君」

 目賀博士はのびをして、手の甲でとんとん腰をたたきながら、

「荷造りはあとのことにして、ここらでまたいっぱいやらんかい。ちょうど警部さんや金

田一先生もお見えになったし、なにしろ、こう暑うてはやりきれんわい」

 じっさい暑かった。しめきった部屋のなかは、蒸むし風ぶ呂ろのなかにいるようで、

じっとしていても、毛穴という毛穴からじりじりと汗が吹き出してくる。それに気圧がぐ

んぐんさがっていくのが、はっきりわかるような息苦しさだった。

「ええ、それじゃグラスをとってまいりましょう」

 東太郎の出ていくあとから、

「どれ、わしも手を洗うて来よう。一彦君、あんたはどうじゃ」

「ええ」

 一彦も目賀博士のあとから出ていった。

「お嬢さん、電話をちょっと拝借したいのですが……」

「さあ、どうぞ」

 美禰子と等々力警部が出ていくと、あとには耕助ただひとり。うずたかく積みあげられ

たトランクやスーツを、茫ぼう然ぜんたる眼で眺めている。

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