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第二十六章 秌あき子こは何に驚いたか(6)
日期:2023-12-11 13:50  点击:262

「なるほど、なるほど、それから……?」

「それからもう狂ったようにおなりになって、あたしはもう一刻もこの家にはいられな

い。お信乃、早く鎌倉へつれてってと。……みなさんがどんなにおとめしてもお聞き入れ

なく、逃げるように御出発なさいましたの」

 しいんとした沈黙が部屋のなかに落ちこんでくる。外の嵐あらしにもかかわらず、骨も

凍るような静けさだった。

「なるほど、すると奥様は今日この部屋で、悪魔……を、発見されたというんですね」

「はあ、あの、そうじゃないかと思います」

「そして、奥様の発見した悪魔とは、目賀先生らしいとおっしゃるんですね」

「いえ、あの、それは、……あたしにも、よくわかりませんけれど……」

 目賀博士が猛烈に鼻を鳴らして、何かわめき立てようとしたのはそのときだった。

 しかし、金田一耕助はすばやくそれをさえぎって、

「いや、ちょっと待ってください。目賀先生、そのときあなたはどこにいらっしゃいまし

た? 子奥様のごらんになったものは、ひょっとするとあなた以外のものだったかも知れ

ない。恐れいりますが、そのときの席へお戻りになってくださいませんか」

 目賀博士はちょっと戸惑いしたような顔をしたが、すぐ、ソファから向かって左のほう

の部屋の隅へ歩いていった。そしてそこでくるりとこちらをふりかえると、

「わしはここに立って、こうしてウィスキーのグラスをなめていたんだ。そうだ、ちょう

どこのままの姿だった。上半身裸で……」

「そして、秌子奥様はここに坐っていらっしゃったんですね」

 金田一耕助はソファに腰をおろして、目賀博士のほうを見る。すると、すぐ気がついた

のは、目賀博士から少しはなれた背後に、鏡をはめこんだマホガニー製の衝つい立たてが

立っていて、その鏡に目賀博士の脂あぶらぎった背中がうつっていることである。

 むろん、鏡にうつるのは目賀博士の背中ばかりではない。ちょっと目の角度をかえるこ

とによって、ソファから向かって右の部屋の部分が、かなりすみずみまで見えるのであ

る。

 金田一耕助はなにかしらはっとした。

「あの、ちょっとお伺いしますが、そのときみなさんのこらず、ここにお集まりだったん

ですね」

「ええ、みんな……鎌倉へお供したお種さんも……」

「それじゃ、すみません、そのときの席へおつきになってくださいませんか。警部さん、

あなたはお信乃のかわりになってください」

 みんな妙な顔をしていたが、それでもそれぞれ席をかえた。華子と美禰子はテーブルを

はさんでソファのまえに。菊江はテーブルの向かって右手に。一彦は華子のうしろに立

ち、東太郎はソファの右背後に窓を背にして。そして、

「お種さんはそこに立っていたのよ」

 と、菊江は東太郎の少しまえあたりを指さした。

 金田一耕助はもう一度秌子の席から鏡を見る。だが、すぐ失望したというのは、ちょっと

眼の位置をかえることによって、そこにいるひとびとの全部を、鏡のなかに見ることが出

来るのである。華子と美禰子は斜めうしろから、一彦はその側面を、菊江は斜め前面か

ら、東太郎はほとんど真正面から。……

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