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第二十七章 密室の再現(1)
日期:2023-12-11 13:51  点击:258

第二十七章 密室の再現

 颱たい風ふうの一夜は明けて十月十一日。

 麻布六本木にある椿つばき邸ていは、今日は朝から、戒厳令でもしかれたような、もの

ものしい警戒ぶりである。

 新聞でまた新しい惨劇を知った弥次馬が、つぎからつぎへと押しよせて、好奇心にみち

た眼で、屋敷の周囲を取りまいている。颱風でくずれた塀のすきまから、なかへ侵入しよ

うとする新聞記者と、警官のあいだに、ひっきりなしに小ぜりあいが演じられていた。

 午後七時。

 鎌倉で解剖に付された あき子こ夫人の遺い骸がいを先頭に、関係者一同が引きあげてく

るにおよんで、椿邸を囲い繞にようする空気は、いよいよ緊迫の度を加えて、警官のいき

きが俄にわかに活発になってくる。

 誰もかれももううんざりしているのだ。いつまでもこんなことを繰り返していてはなら

なかった。これ以上の惨劇はもうまっぴらだ。一刻もはやくけりをつけて、警察の威信を

示さねばならぬ。そのためには今夜あたり、なんらかの手をうたなければならないのだ

が……。

 夫人の遺骸が奥座敷に納まったころ、金田一耕助が騒然としてやってきた。かれは今

朝、横須賀線が復旧するとまもなく、ひとあしさきに東京へひきあげてきたのだ。疲れ

て、血走っていたけれど、瞳めが一種異様なかがやきをおびているところを見ると、耕助

はなにかつかんだのではないだろうか。

 応接室で警部に出あった。警部は隅のほうへ耕助をひっぱっていって、押し殺したよう

な声でささやいた。

「金田一さん、出川刑事からまた報告が来ましたよ」

「知っています。ぼくのところへも来ましたから……」

「小さ夜よ子この自殺の原因が……」

「ええ、それについて、ぼくも考えているところなんですが……」

 ふたりはだまって、はげしく視線と視線をからませている。突然、金田一耕助が身ぶる

いをした。

 出川刑事の報告というのはこうである。

 刑事はその後も神戸にとどまって、小夜子自殺の真因を知ろうとして、百方、奔走して

いるのだが、最近になって、つぎのような事実をつきとめたのである。

 小夜子は自殺する前日、Mという親しい友人を訪れている。そのMが述懐するのに、あ

とから思えば、あのとき小夜子さんは、お別れの挨あい拶さつに来てくれたらしいのだ

が、その際、彼女が妙なことを口走ったというのである。

 あたしは畜生道におちいった。……と。

 畜生道……この古風な、草くさ双ぞう紙しめいた言葉の意味を、Mははっきり理解する

ことが出来なかった。しかし、そのときの小夜子の顔色なり素振りから、強く印象にの

こったのである。

「畜生道……金田一さん、これはどういう意味でしょうかね。つまり、叔お父じにあたる

治雄と関係したことをいってるんですかな」

「しかし、そのことなら、小夜子も承知のうえだったんじゃないでしょうかねえ。それ

に、畜生道という言葉は、ふつうもっと強い肉親相そう姦かんの場合に用いられるようで

すが……」

 そこでふたりはまた、無言のまま眼と眼を見かわしていた。等と々ど力ろき警部の瞳の

おくにも、何かしら燃えているものがあった。

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