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第二十七章 密室の再現(2)
日期:2023-12-11 13:53  点击:308

 金田一耕助はふと視線をそらすと、ゆっくり頭をかきまわしながら、

「警部さん、 あき子こ夫人の解剖の結果は……?」

「お定まりの青酸加里というやつですね。目賀博士の調合した、強心剤のなかにしこまれ

ていたんですな。どうもこの青酸加里というやつ、やたらに氾はん濫らんしているので、

始末におえない。これも戦争の惨さん禍かというやつですかね」

 警部は暗い眼をしてつぶやくと、

「金田一さん、どうです。思いきって、三島東太郎をたたいてみたら。……」

「ええ、いずれ、今夜のうちに……しかし、もう少し待ってください。それより、警部さ

ん、お願いしておいた、あちらの部屋の用意は出来ましたか」

「ふむ、いまやっているところだが……もうすぐ準備が出来るだろう」

 そこへ刑事が入ってきて、何か警部に耳打ちした。警部はうなずいて、そそくさと応接

室から出ていった。

 あとには耕助がただひとり、応接室にとりのこされて、ぐったりとソファに身を沈め

た。あたりを見ると、荷造りされたままの、トランクだのスーツケースだのが、昨夜のま

ま、うずたかく積みあげてある。それはもう鎌倉へ送られる必要もなく、ただ徒いたずら

に目賀博士や、三島東太郎に、汗を流させただけだった。

 金田一耕助は憮ぶ然ぜんとした眼で、トランクの山を見まわしながら、もう一度、昨夜

のことを考えてみる。

 思えば 子夫人の最期は、まことにあっけないものだった。

 何におびえたのか、昨日の四時ごろ、ここをとび出した 子夫人は、お信し乃のとお種を

ともなって、北鎌倉の別荘へ走った。三人が別荘へ着いたのは、六時ちょっとまえのこと

だったが、広い別荘のなかは暴風の闇やみにつつまれていた。しかし、その時分、北鎌倉

いったいは、まだ停電にはなっておらず、そのことが 子夫人の命を断つのに、重要な役目

をなしたのである。

 おびえきった 子夫人は、お信乃とお種に左右から、抱かれるようにして、洋風の寝室へ

入っていった。お信乃が壁際にあるスウィッチをひねった。しかし、電気はつかないで、

その代わりまっくらな部屋のなかから聞こえるのが、あの呪のろわしい「悪魔が来りて笛

を吹く」のメロディー……

 それこそ、まさに効果百パーセントだったろう。戸外には嵐あらしがたけりくるってい

る。しかも、 子はおびえにおびえている折り柄だった。そこへ突然、真暗な部屋のなかか

ら、あの血も凍るような呪いの旋律が聞こえてきたのだから、 子の魂はその瞬間、ショッ

クのために死んでいたのかも知れない。

 お信乃もお種もしばらく棒をのんだように立ちすくんでいた。お信乃はしかし、それま

でのたびたびの経験から、すぐに犯人のからくりを見破った。

 彼女は手さぐりで部屋のなかへ踏みこむと、ベッドの枕まくらもとにある電気スタンド

のスウィッチをひねった。電気はすぐつき、あの呪わしいメロディーの源みなもともすぐ

わかった。

 お信乃はベッドの下から小型の電蓄をひっぱり出した。電蓄の回転盤のうえで、悪魔の

レコードが躍おどっている。

 お信乃は電蓄の回転をとめると、レコードをはずして床のうえに投げつけた。レコード

は木っ葉微み塵じんとなって散乱したが、そのとたん、 子はお種の腕のなかで気を失った

のである。

 そのとき、お信乃やお種が、 子の手当てをしかるべき医者にまかせていたら、あるいは

それから起こったような悲劇は未然に防ぐことが出来たかも知れない。

 しかし、なにしろあの大嵐だ。はたして医者が来てくれるかどうかおぼつかなかった

し、それにお信乃としては、外見をはばかる気持ちもあったのだろう。

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