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第二十七章 密室の再現(3)
日期:2023-12-11 13:53  点击:265

 かねてから、こういう場合の用意にと、目賀博士が調合しておいた錠剤を、 子の口にふ

くませたが、それが彼女の生命を奪おうなどとは、お信乃はむろん、夢にも知らなかった

のである。

 錠剤のなかには青酸加里が入っていた。 子ははげしい苦く悶もんと痙けい攣れんにのた

うちながら絶息した。恐怖のために気が狂いそうになっているお信乃とお種の腕に抱かれ

て。……

 戸外にはいよいよ嵐がたけり狂っていた。

 さて、問題は誰があの電蓄をしかけ、そしてまた、誰が目賀博士の調合した錠剤のなか

に、青酸加里をしこんだかということだが、金田一耕助はもうそれについては、考えるこ

とをやめた。

 子が別荘へおもむくまでには、椿家の家人はかわるがわる準備のために、出向いていっ

たというではないか。してみれば、電蓄の用意をするチャンスは、誰にでもあったし、ま

た、青酸加里入りの錠剤を目賀博士のつくった薬とすりかえるチャンスだって、椿家の住

人なら誰にだってあったはずだ。犯人はいつも、誰にでも与えられるチャンスを利用して

いるのである。

 それよりも問題は、昨日、 子はこの部屋で何を見たのか。誰のうえに悪魔……を発見し

たのか、ということである。

 金田一耕助は思い出したように部屋を見まわす。それから立って、ごたごたと積みあげ

られたトランクや、スーツケースのあいだを歩きまわる。鏡をはめこんだ衝つい立たての

まえに立って考え込む。

 昨日、 子夫人をおびやかしたものは、目賀博士そのものだったのか。それとも、この鏡

にうつった誰かの影像ではなかったか。と、すれば 子夫人が鏡のなかに発見したのは、

いったい、なんだったのか。

 金田一耕助は衝立を背にして、もう一度部屋のなかを見まわす。いや、一度ではない、

何度も何度もあたりを見まわす。爪つめをかみ、もじゃもじゃ頭をかきまわし、スリッパ

をはいた片脚が、いそがしいリズムで貧乏ゆすりをする。

 突然、耕助の眼がとある一点に凝縮した。そのとたん、もじゃもじゃ頭をかきまわす手

の運動も、貧乏ゆすりをする脚のリズムも、凍りついたようにはたと止まって、大きく見

開かれた耕助の瞳に、はげしい炎がもえあがった。

 耕助の眼は、鎧よろい扉どをおろした窓に、釘くぎ付づけにされているのである。

「悪魔……」

 耕助は大きく喘あえぎ、いったん停止していた指が、今度は猛烈な勢いでもじゃもじゃ

頭をかきまわしはじめた。まるで髪の毛を引き抜こうとでもするかのように……。

 耕助はそのときようやく、 子夫人のいおうとしていたことが、わかったような気がした

のである。

 そこへ刑事がいそぎあしに入ってきた。

「あ、金田一先生、あちらの用意が出来ておりますが……」

「ああ、そう」

 耕助は夢からさめたように、眼をぱちくりさせながら、

「警部さんは……?」

「向こうでお待ちでございます。みんな集めておきました」

「ああ、そう、それじゃ」

 袴はかまの裾すそをさばいて、長い廊下を刑事のあとからついていくとき、耕助の眼に

はこの事件がはじまって以来の、ただならぬ昂こう奮ふんのいろが見てとられた。かれは

はっきり意識しているのである。さすがの恐ろしいこの事件もようやく大詰めに迫ってき

たことを。

 耕助が案内されたのは、この一連の殺人事件の、最初の幕を切って落とした、あの防音

装置のほどこされたアトリエのまえである。そこにはいつかの夜、砂占いの席につらなっ

たひとびとのすべてが、ひとかたまりになって立っている。むろん、あの夜からのちに、

あいついでこの世を去った玉虫伯はく爵しやくや新宮利彦、それから 子夫人のすがたは見

えなかったが。

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