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第二十七章 密室の再現(4)
日期:2023-12-11 13:53  点击:284

 大勢の私服の警官にとりかこまれて、不安そうに部屋のなかを見ているそれらのひとび

との顔色には、過労からくる痴ち呆ほう的な匂においがかんじられた。

「金田一さん、これでいいのかね」

 部屋のなかから警部の声が聞こえた。

 耕助はひとびとのあいだをわって、部屋のまえに立つと、無言のままなかを見まわす。

 黒いカーテンで三方を区切られた、八畳ばかりの一いつ劃かく。天井からぶらさがった

自家充電のホーム・ライト。ただし、それは形ばかりで、今夜はあかあかと電気がついて

いる。

 ホーム・ライトの下にある大きな円卓をとりかこんで、椅い子すが十脚あまり。円卓の

うえには砂占いに使われた大きな皿。皿のなかには新しい砂が盛られて、きれいに表面が

ならされている。それから、円卓から少しはなれた台のうえに、風神だか雷神だかの像が

のっかっている。

 金田一耕助は入念に、部屋のなかを見み廻まわしたのち、そばに立っている美み禰ね子

こをふりかえった。

「美禰子さん、あの晩……ほら、玉虫伯爵が亡くなられた晩、ここはこのとおりでした

ね。それとも、どこかちがっているところがありますか」

 美禰子は蒼あお白じろくそそけ立った顔色で、念入りに部屋の調度をひとつひとつ見て

いったのち、かすかにうなずきかけたが、急に頭を横にふって、

「ああ、あれ、ちがっていますわ」

「どれ。……」

「ほら、あの台にのってるの風神でしょう。あの晩、ここにあったのは雷神でしたわ。玉

虫の伯父さまは雷神の像でなぐられて……」

 金田一耕助はかすかにほほえんだ。

「ところがね、美禰子さん、あの晩、この部屋にあったのは風神だったんですよ。しか

し、あのとき風神像は、ホーム・ライトの光の外に立っていたし、それによく似たかたち

だから、誰もそれに気がつかなかったんです。誰だって、そんなものに特別に注意を払う

ものはなかったでしょうからね」

 美禰子は物問いたげな眼で、耕助の顔を見ながら、

「でも、風神像は去年泥棒に盗まれて……」

「そう。しかし、ここにあるじゃありませんか。泥棒はいったん風神雷神ともに盗み出し

たが、ふたつとも庭のどこかへ投げ出していったんですね。雷神のほうはその後発見され

たが、風神は誰の眼にもつかぬところにほうり出されていた。それを犯人が発見して、あ

の晩の計画に利用したんですね」

 美禰子はまた物問いたげな眼で耕助を見、何かいおうとしたが、そのまま口をつぐんで

しまう。美禰子に代わって口を開いたのは菊江だった。

「それで、金田一先生、これからいったい何がはじまろうというんですの。あの晩の情景

をもう一度ここに再現してみせて、それで犯人を恐怖におとしいれ、告白を引き出そうと

いうわけなんですの」

 相変わらずからかうような調子だが、今夜はさすがに声がしゃがれている。悧り巧こう

な女だけに、今夜の耕助の態度のなかに、いつもとちがうものを嗅かぎ当てたのにちがい

ない。

 耕助はにこにこしながら、

「ええ、まあ、そういうわけで……」

「でも、そんなことでやすやすと、恐れ入るような犯人だといいのですけれど」

 そういいながら、菊江はそれまで並んで立っていた、目賀博士のそばから、わざと大お

お袈げ裟さな身ぶりではなれる。目賀博士の眼が、凶暴な光をおびてまたたいた。

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