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第二十七章 密室の再現(5)
日期:2023-12-11 13:54  点击:308

「いやあ」

 耕助は相変わらずにこにこしながら、

「犯人の告白はどうでもいいんです。それよりもぼくは、あの晩、いかにして砂鉢の砂の

うえに、火か焰えん太だい鼓こ、即ち悪魔の紋章がえがかれたか、それからまた、どうい

うふうにして、密閉された部屋のなかで、あのような血みどろの殺人が行なわれたか、そ

れを再現してみようというんですがね」

「つまり、手品の種明かしをしようというんだね」

 脂あぶらぎった蟇がま仙人の眼に、あざ嗤わらうような色がうかぶ。華はな子こと一彦

は鉛をのんだように、重っ苦しい顔をして立っている。少しはなれて、三島東太郎とお種

が、思い思いの顔色で立っている。お信乃はあいかわらず、禿はげ鷹たかのような眼をし

て、しゃんと威儀を正していた。

「さよう、さよう、そのとおり。そして、すべての手品の種明かしが子供だましであるよ

うに、この密室の殺人事件の真相も、かなりあっけないものです。但ただし、そうかと

いって、これは誰にでも出来るというわけのものではありませんがね」

 金田一耕助はそういいながら、部屋のなかへ入っていった。みんなの眼がそのあとを

追っかける。

 金田一耕助は円卓と風神像のあいだに立って、ドアのほうをふりかえると、いくらか鼻

白んだような顔色で、

「ほんとうをいうと、ここでちょっともったいぶって、あの晩のとおりみなさんに椅子に

ついていただき、電気を暗くして、もう一度砂占いをやってみたいところなんですがね。

しかし、今夜はほかにもまだやらねばならぬことがありますから、手っとりばやくやって

お眼にかけましょう」

 耕助はそういいながら、かたほうの台のうえに立っている風神像を取りあげると、台の

底を判でも捺おすようにべったり砂のうえに押しつけた。そして、それを取ったとき、ひ

とびとの眼は、ふっと大きく見開かれたのである。砂のうえにはありありと、あの晩見た

と同じような、火焰太鼓のかたちがえがかれているではないか。

 目賀博士が突然くっくっ笑い出した。

「なるほど、これは子供だましだな。しかし、そういえばあの晩の火焰太鼓も、判で捺し

たようにえがかれていた。新宮さんの奥さん、そうじゃなかったかな」

 目賀博士はわざとそばにいる菊江や美禰子を無視して、遠い華子に話しかける。

「はあ、あの、そうおっしゃれば……」

 誰も目賀博士や華子の説に反対するものはなかった。

「わかったわ。金田一先生」

 と、菊江も唾つばをのみながら、

「それで、どうして火焰太鼓が、あの晩、砂鉢のうえに現われたかということが。……で

も、それだけじゃ、玉虫の御前が、どうして殺されたかという説明にはならないわね」

「ええ、そう、だからそれをこれから警部さんとふたりで、実演してお眼にかけようとい

うんですよ」

「ええ、わたしとふたりで……?」

 警部はびっくりしたように、眼をパチクリとさせている。

「ええ、そう。なに、実演といっても簡単なもんでさあ。ぼくのいうとおりにしてくださ

ればいいんですよ。さて、そのまえに。……」

 と、耕助はドアのほうをふりかえり、

「砂鉢のうちに火焰太鼓が現われたとき、どういうことが起こったか、みなさんも憶おぼ

えているでしょう。『悪魔が来りて笛を吹く』……あのレコードが聞こえてきたんでした

ね。あれはつまり犯人が、今度の事件の被害者たちを、じわりじわりと絞めつけていく、

ひとつの手段だったんですが、それと同時に、火焰太鼓からいっとき、ひとびとの注意を

そらせる必要もあったわけです。何な故ぜといって犯人は、誰にも気付かれないうちに、

この風神をもとの雷神と取りかえておかなければならなかったからです。では、その雷神

はどこにあったか。……」

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