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第二十七章 密室の再現(6)
日期:2023-12-11 13:54  点击:231

 耕助はつかつかと部屋から出てくると、ドアの外に飾ってある大きな花瓶を指さして、

「みなさんはあの晩、ぼくがこの部屋へ入るまえに、何気なくこの花瓶のうえに帽子をお

いたことをおぼえてるでしょう。ところが、その帽子の裏の汗革が、花瓶の彫り物にひっ

かかって、取るに大騒ぎを演じたのでしたね。ところが、なんと皮肉なことには、あの

晩、雷神はこの花瓶のなかにかくしてあったんです」

 耕助は一同の顔を見まわしながら、

「犯人はあのレコードで、われわれを部屋から追い出すと、大急ぎで花瓶のなかから雷神

を取り出そうとした。ところがおっとどっこい、ぼくの破れ帽子がひっかかって、雷神を

取り出すことが出来ない。無理に帽子を取ろうとすれば、汗革を破るおそれがある。それ

に、あんまりぐずぐずしていることも出来なかったので、風神と雷神の取りかえは一時延

期することにした。ところが、そのうちにレコード騒ぎも一段落つき、ぼくがやっとのこ

とで、帽子をとってかえったので、電神はいつでも花瓶のなかから取り出すことが出来る

ような状態になった。ところが今度は……」

「玉虫の御前が邪魔になったのね」

 菊江がやさしい声で口をはさんだ。

「ええ、そう。あの火焰太鼓に大きなショックをかんじた玉虫の御前は、ひとりこの部屋

に頑張って、いつまで待ってもお引き取りになろうとしない。そこで、犯人も諦あきらめ

て、いったんは自分の部屋へかえったが、しかし、なんとしても、夜の明けるまでには、

風神と雷神を取りかえておきたかった。そこで、真夜中ごろ、ひとの寝鎮まるのを待っ

て、こっそりこの部屋のまえへ忍んできた。おそらくそのときこの部屋は、電気が消えて

いたのでしょう。犯人はそこで、てっきり玉虫の御前も、お引き取りになったものと考え

て、花瓶のなかから雷神を取り出し、それを逆手に部屋のなかへ入っていった。……」

 耕助がそういいながら、花瓶のなかから取り出したのは雷神である。それを逆手に耕助

は、爪つま先さき立って部屋のなかへ入っていくと、

「ところが、あにはからんや、そこにはまだ玉虫の御前がいられた。御前は酔っ払って寝

ていられたのか、それとも電気を消して、物思いに沈んでいられたのか。……それはとも

かくとして、そこへ誰かこっそり忍んできたので怪しんで、だしぬけにぱっと電気をつけ

た。……」

 耕助はそこで警部に向きなおり、

「さあ、警部さん、あなたが玉虫の御前ですよ。ぼくが犯人です。犯人はだしぬけに電気

がついたので、驚いて玉虫の御前を見る。玉虫の御前は玉虫の御前で、犯人と、犯人の

握っているものを見た。玉虫の御前は聡そう明めいなひとだから、ひとめ見て、さっきの

火焰太鼓のからくりに気がつかれた。そこで犯人を詰問しようとしたが、そのとたん、犯

人が玉虫の御前におどりかかって……」

 耕助は袴はかまの裾すそをさばいて跳躍すると、右手に握った雷神で、等々力警部に

うってかかった。それから、警部のからだを仰向けに、砂鉢のうえに押し倒すと、左手で

咽の喉どをおさえ、右手の雷神で二度三度、警部の頭や面部を打つまねをした。

 それは見ていて、かなり滑こつ稽けいなお芝居だった。警部はこのお芝居について、あ

らかじめなんの打ち合わせもしていなかったらしく、まるで鳩はとが豆鉄砲をくらったよ

うに、眼をパチクリとさせながら、しかし、金田一耕助のするままになっている。

 耕助は警部の咽喉をおさえつけたまま、

「こうして、砂鉢はかき乱され、あたりには血が飛び散った。ことに玉虫の御前が鼻血を

出されたので、血の量はじっさいの傷よりも多かったわけです。さて、砂鉢のうえにおさ

えつけられた玉虫の御前は、必死となってもがきながら、おまえは誰だ、いったい、何を

するのだというようなことを聞かれたのでしょう。さあ、警部さん、あなたが玉虫の御前

ですよ」

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