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第二十七章 密室の再現(9)
日期:2023-12-11 13:55  点击:223

「しかし、金田一先生、あの砂鉢に血で描かれていた、火焰太鼓はどうしたんですの。犯

人がこの部屋を出ていくとき、捺おしていったんですの。御前の見ている眼のまえで──」

 それを聞くと、耕助はうれしそうに、もじゃもじゃ頭をかきまわしながら、

「菊江さん、あなたはじつに頭がいい。ほかのひとの見落としていることでも、あなたは

ちゃんと憶おぼえているんですからね。それはこうです。いままでお話ししたところは、

あの晩の惨劇第二幕で、そのあとにもう一幕あったわけです」

 金田一耕助は部屋へ入ると、風神像を取りあげて、台座の裏を一同に示した。いうまで

もなくそこには火焰太鼓が彫ってある。耕助がそれをいじると、台座の裏が五分ばかりの

厚さでぽっかり外れた。

 耕助は直径三寸くらいのその円盤を、掌てのひらのうえでもてあそびながら、

「いうまでもなくこれはぼくが作ったもので、われわれが風神を発見したときには、ちょ

うどこれくらいの厚さだけ、台座の底が切り落とされていたんです。だから事件が発見さ

れて大騒ぎになったとき、犯人はこういう円盤をポケットにしのばせて駆けつけてきたと

いうわけです。そして、扉が打ち破られ、一同が死体のほうに気をとられているうちに、

こっそり同じような品で砂のうえに、血の紋章を捺しておいた。つまりそれが惨劇の第三

幕目で、ここに完全に密室の殺人が出来あがったというわけです」

 耕助はいくらか得意であったが、しかし、菊江はまだ承服しなかった。

「しかし、それじゃおかしいじゃございませんか。そうして台座の底が切りはなしてあっ

たのなら、あの砂占いのとき、なにも風神と雷神をとりかえたり、あとでそれをまた取り

かえたり、そんな手数のかかることをしなくても、よさそうなものじゃありませんか。そ

の簡単な判こを使ったほうが、よほど、便利で、手数が省けると思いますけれど──」

 金田一耕助はそれを聞くと、いよいようれしそうに、がりがり、ばりばりともじゃも

じゃ頭を搔かきまわして、

「そ、そ、そうです。菊江さん、あああなたのおっしゃるとおりですよ。あなたはじつに

賢明です」

 耕助はそれからやっと落ち着いて、

「だからぼくが思うのに、あの晩の惨劇は、突発的に起こったことなんだ、犯人ははじめ

から、殺人を計画していたのではなかったのだ──と。犯人は最初から、御前に殺意を抱い

ていたのかもしれない。しかし少なくともあの晩は、それを決行するつもりはなかった。

あの晩は、ただ、火焰太鼓でおどろかし、レコードで恐慌をまき起こし、さらに椿子し爵

しやくらしき人物を点出することによって、より一層、このお屋敷を恐怖のどん底におと

しいれる。そうして、じわじわとあるひとたちを絞めつけていく、いわば準備行動だけ

で、あの晩は満足するつもりだったのでしょう。ところが、いまお話ししたような順序

で、思いがけなくも殺人を決行してしまった。しかも決行したあとで考えてみると、それ

はたいへん異様な状態のもとにおかれている。密閉された部屋のなかで血みどろな殺人が

行なわれているのです。その異常さ、神秘さに気がついてた犯人は、その神秘性をより一

層強調するために、あの血の烙らく印いんということを思いついた。そこで犯行後じぶん

の部屋へかえると、大急ぎで台座の底を切り落としたのです。そして、あなたが事件を発

見して大騒ぎになったとき、切り落とされたその判こをポケットにしのばせ、何食わぬ顔

をして駆けつけた。──と、そういう順序になるだろうと思います」

「わかりましたわ。金田一先生」

 さすが気むずかし屋の菊江もやっとそれで納得した。

「それで密室の殺人については、何もかも説明がついたというわけなのね。そこで今度は

誰が犯人かということになるんでしょうけれど、あなたはそれをご存じなのね。そして、

その犯人というのはいまここにいるんでしょう」

 菊江が明るく笑いながら、じぶんの周囲を見まわしたとき、さすがにひとびとは顔色を

うしない、緊迫した空気が、部屋の内部を押してくるんだ。

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