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睡れる花嫁 八 (2)
日期:2023-12-14 14:02  点击:264

「ふむふむ、それで、金田一さんには、加奈子の情夫というのがわかっているんですか」

 金田一耕助はゆっくり首を左右に振って、

「いや、まだはっきり断定するわけにはいきませんがね。だいたい、そうじゃないかと思

われる人物があるんです」

「その情夫が、何かこんどの事件に……?」

「いや、まあ、聞いてください。ぼくはだいぶんまえから、加奈子のあとをつけまわして

いたんです。加奈子がだれかと秘密に通信するんじゃないかと……」

「金田一さん、金田一さん、あなたは加奈子が樋口をかくまっているとおっしゃるんです

か。しかし、樋口の出獄は十月に入ってからだから、川口という男の気づいた情夫と

は……」

「いや、まあ、待ってください。いまにわかります。とにかく、加奈子を尾行していたん

ですね。ところがきのう、加奈子は神か楽ぐら坂ざかへ出向いていって、そこのポストへ

手紙を投とう函かんしたんです。ぼくにはそれがわざわざ手紙を投函しにいったとしか思

えなかった。そこでぼくは、わざと切手を貼はらない手紙を投函したんです。そして、集

配人のやってくるのを待って、切手を貼るのを忘れたから、ちょっと手紙を選よらせてく

ださいと頼んだんです。さいわい、集配人が親切なひとだったのと、手紙がそうたくさん

なかったので、加奈子の手紙はすぐ見つかりました。差出人は加奈子と、名前だけしか書

いてなく、宛名は清水浩吉様というんですが、近ごろぼくは、あれほど大きなショツクに

うたれたことはありませんでしたね」

「清水浩吉……? そ、それはどういう人物ですか」

「いまから四年まえ、S町のアトリエでああいうことがあったとき、瞳という女の死体を

最初に発見した酒屋の小僧とおなじ名前ですね」

 突然、等々力警部は椅子のなかで、ギクリと体をふるわせた。そして、しばらく口もき

けない顔色で、金田一耕助を見つめていたが、

「金田一さん!」

 と、急に体を乗り出すと、

「あの小僧が、ど、どういう……」

「ぼくはそれをつきとめると、すぐにS町へ出向いていって、清水浩吉の働いていた、三

み船ふね屋という酒屋を訪ねたんですが、あの事件のあったのは、浩吉の十三歳のとき

だったが、その翌年、女中にへんなことをしかけたので、三船屋を放逐されたというんで

す。聞いてみると、いたずらは激しかったが、非常な美少年だったというんですね。それ

で、写真はないかと探してもらったんですが、やっと一枚見つけてくれました。これがそ

うなんですがね」

 金田一耕助の取り出したのは、ローライ・コードでとった写真で、にっこり笑った少年

の胸から上が写っている。なるほど美少年である。

「警部さん、その顔、だれかに似てると思いませんか」

「だれかにって、だれに……?」

「それに、四、五年としをとらせて、前髪を額にたらし、女の支那服の襟で咽の喉ど仏ぼ

とけを隠させたら……」

 等々力警部の眼は、突然、張り裂けんばかりに大きくなった。そして、かみつきそうな

視線で、写真の顔を凝視していたが、

「し、し、しげる! そ、そ、それじゃ、あいつは男だったのか」

 等々力警部はしばらく茫ぼう然ぜんとして、金田一耕助の顔を見つめていたが、にわか

にハンカチを取り出して、額の汗を拭ぬぐうと、

「金田一さん、いってください。それじゃ樋口という男は……?」

「殺されたんじゃないでしょうかねえ。マダムとしげるに……」

「六百万円を奪うためだな」

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