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湖泥 五 (1)
日期:2023-12-14 14:36  点击:229

「妙ですなあ」

 浩一郎のうしろ姿を見送って、かれとの一問一答を速記していた刑事が不思議そうに小

首をかしげてつぶやいた。

「あいつどうして水車小屋をあけていたといわんのでしょう。そのほうが有利な弁明がで

きるちゅうのに……」

「それはねえ、刑事さん」

 と、金田一耕助がにこにこしながら、

「あの男、ほんとうに小屋をあけていたからですよ」

「な、なんですって!」

 一同ははじかれたように耕助を見る。耕助はもじゃもじゃ頭をかきまわしながら、

「警部さん、いまのあなたの最初の質問にたいする、浩一郎の答えを思い出してくださ

い」

「最初の質問にたいする答え……?」

「そうです、そうです。三日の晩、一歩も水車小屋を出なかったかというあなたの質問に

たいして、出なかったと答えたあとで、いそいで、半時間ほどカーテンの奥でうたた寝を

したと付け加えたでしょう。このことはきのう警部さんが質問されたときも、付け加えた

んでしたね」

「ああ、そう、しかし、それがなにか……?」

「浩一郎はなぜそのことをいつも強調するんでしょう。つまり、それは一種の予防線では

ありますまいか。カーテンの奥で寝ていれば外からのぞかれてもわからない。たとえそこ

にいなくてもわからないわけです。だからだれかがのちに、おれがのぞいたときにゃいな

かったぜと、いうようなことを言い出したとしても、カーテンの奥で寝ていたんだとい

う、予防線をつくっておいたんじゃありませんか。と、いうことは取りもなおさず、水車

小屋をあけたということを、意味しているんじゃありますまいか」

「しかし、それならなぜそうはっきりと言わんのですか。いま、木村君も言うたとおり、

そのほうが有利な弁明ができるちゅうのに……」

「警部さん」

 耕助は机の上に身を乗りだして、

「あなたは浩一郎が外へ出て、ただなんとなくそこらをぶらぶらしとりました、と、いう

ようなことを言っただけで満足しますか。いや、それじゃかえって卑ひ怯きような逃げ口

上だと、いっそう疑いを増すばかりでしょう。小屋をあけたのならあけたで、どこへ行っ

てなにをしていたかということをはっきり言わねばならない。いや、そのうえに証人でも

立てなければ、あなたは満足なさらんでしょう。浩一郎にはそれができないか、できたと

してもいやなんですね」

「しかし、殺人の嫌けん疑ぎをうけるくらいなら……」

「だから、そこがおもしろい問題ですね。浩一郎にとっちゃ、よほど深刻な問題があるん

でしょう。これを由紀子を水車小屋へ呼びよせたもののがわから考えてみましょう。由紀

子が水車小屋へ行ったってことは、もう疑いの余地がないようですが、さっき浩一郎も

いったとおり、あの男がそんな変な呼びかたをするはずがありませんね。もし、浩一郎に

はじめから殺意があったとしたら、なおさらのことでしょう。その晩浩一郎の水車小屋に

いることは、みんな知っているんだから、由紀子がそこへくる途中でひとに会ったら、そ

れきりですからね。とすると、由紀子を呼びよせたのはほかのものにちがいないが、そい

つは浩一郎がいるところへ、由紀子を呼びつけるでしょうか。そんな馬鹿なことをするは

ずはないから、そいつはあらかじめ浩一郎が水車小屋をからにすることを知っていたか、

あるいはからにするように工作したにちがいありませんね」

「金田一さん」

 警部は急に声をおとして、

「浩一郎があの晩、水車小屋をあけてどこかへ出かけたとして、それが村長の細君の失し

つ踪そうに、なにか関係があるとお思いですか」

 金田一耕助は無言のまま、警部の眼を見かえしていたが、やがてかるく頭を横にふる

と、

「さあ、そこまではいまのぼくにはわからない。しかし、清水さん、あの晩、村長はどこ

にいたんですか」

「それはむろん隣村です」

 清水君が言下に答えた。

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