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湖泥 八 (4)
日期:2023-12-14 14:52  点击:230

 康雄はそこまでいうと、急におびえたような眼の色をして、警部の顔色をさぐりなが

ら、

「警部さん、こんなこというても信用できんかもしれませんが、そんならぼくを林のなか

へかついで行ったやつを探してください。そいつなら、ぼくがどんなに眠りこけていたか

ちゅうことを、よう知っとるはずですけん」

 警部はそれにたいして、なんとも発言しなかったが、そばから金田一耕助がすこし体を

乗りだすようにして、

「康雄君、きみが振舞酒を飲んでいるとき、あたりにひとがいましたか」

「ええ、もう、そこらいっぱい。芋いもを洗うようにごちゃごちゃと……そんなところで

酒飲むのんは、貧乏人にきまっとるもんですけん、みんなもうがつがつして餓鬼みたい

……ぼくなんかちゃんと親戚があるもんですけん、そんなとこで飲むとわらわれるんで

すが、そんときは由紀子のことがあるもんですけん、景気づけにひっかけたんです。そう

やなかったら、あんなまずい酒、飲めるもんやないんです。つうんと鼻へきて。……」

「その酒、自分で酌くんで飲むんですか」

「いいえ、だれかが酌んでくれました」

 金田一耕助は警部のほうを見て、

「警部さん、もうこれくらいでいいでしょう。まだなにかお尋ねになることが……」

 警部はうなずいて、康雄に当分禁足を要請すると、康雄はおびえたように跳びあがっ

た。

「警部さん、ぼくはほんとうになにも知らんのです。あれはみんな浩一郎のやったことに

ちがいない。浩一郎のやつ、痴ち話わが昂こうじて奥さんを殺しよったんです。いや、は

じめから殺すつもりやったかもしれん。ところが、水車小屋へかえってくると、由紀子が

行っていたので、これまた殺しよったんです。きっと由紀子になにか感づかれよったにち

がいない。警部さん、警部さん、あれみんな浩一郎のやつのしわざです。ぼく、なんにも

知らんのです。ぼくは潔白です。信じてください。信じて……」

 のどもかれんばかりにわめき散らし、おんおん泣きながら康雄が刑事にひったてられて

出ていくのを見送って、磯川警部は清水巡査を呼ぶと、浩一郎を迎えにやり、さて、あら

ためて金田一耕助のほうへむきなおった。

「金田一さん、いまの康雄の話、どうお思いですか」

「そうですね。これは一応、浩一郎の話もきいてみなければ……」

「それはそうだがいまの康雄の話、まずい弁明だとは思いませんか」

「そうですとも、そうですとも。警部さん」

 と、木村刑事は膝ひざを乗りだして、

「由紀子を殺したのはてっきりあいつですぜ。もちろん、はじめからそのつもりじゃな

かったが、その場のはずみで殺してしもうた。そこで泡あわをくって死体を湖水へ投げこ

んだんでしょう。浩一郎の乗ってきた舟が、つないであったわけですけんな。それから隣

村へ逃げてかえろうとしたが、そこで村長の細君のことを思い出した。水車小屋で康雄が

由紀子を手ごめにしようという段取りは、村長の細君が知っている。由紀子の死骸が見つ

かれば、すぐ自分に疑いがかかるわけですけん、そこでこれも殺してしまいよったんで

す。ねえ、そう考えれば万事つじつまが合うじゃありませんか」

「なるほど、明快な推論ですね」

 金田一耕助がにこにこしているところへ清水君が浩一郎をつれてきた。

 浩一郎はきのうとおなじく顔色青ざめ、苦悩の色がふかかったが、しかし、きのうから

みると、かえって落ち着いているようだ。

「北神君、まあ、座りたまえ」

「はっ」

 浩一郎は膝っ小僧をそろえてかしこまる。

「今日はね、ひとつ、ほんとうのところを聞かせてもらおうじゃないか」

「恐れいりました。お手数をかけてすみませんでした。ぼくもそのつもりで参上しまし

た」

 うなだれながらも、自若としたその横顔を、金田一耕助はにこにこ見ながら、

「そうそう、それがいいですよ。なにもかも正直にいってしまうんですな。由紀子さんの

死体を湖水へ沈めたこともね」

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