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湖泥 九 (4)
日期:2023-12-14 14:57  点击:290

 金田一耕助はやさしい眼でそれを見ながら、

「手紙だの紙入れだのは……?」

「いいえ、なんにも持っとらなんだんです」

「ところでねえ、浩一郎君」

 と、金田一耕助は少し机から体を乗りだすようにして、

「きみと村長の奥さんとの関係だがね。だれか感付いてるものがなかったかしら。あんた

思い当たるところない?」

 浩一郎はまた顔をあかくして、

「いいえ、おそらくそんなひとないだろうと思います。そういう点、あの奥さんとても慎

重で上手でしたから」

「しかし、浩一郎君、あの晩……三日の晩ですがね、こういう手紙を村長のポケットに投

げこんだものがあるんですがね。警部さん、あれを……」

 金田一耕助にうながされて、磯川警部が例の密告状をひろげてみせると、浩一郎はびっ

くりしたように眼を見張った。

「浩一郎君、あんた、こういう手紙の筆者に心当たりはありませんか」

「いいえ、いいえ、ぼく、全然……」

「この筆跡には……?」

「それも、ぼくにはわかりません」

「ああ、そう」

 と、金田一耕助は手紙をたたんで、

「それじゃ、浩一郎君。最後にもうひとつお尋ねがあるんですがね」

「はあ。……」

「九十郎君のことですがね。九十郎君が由紀子さんの死体にどういうことをしていたか、

きみも知っているでしょう。それについて、あんた、どう思う……?」

 そのとたん、浩一郎の頰にさっと血の気がのぼったが、それが潮のように退いていく

と、額にいっぱい汗をにじませ、わなわなと体をふるわせながら、

「ぼく……ぼく……とても恥ずかしいことだと思います。自分のこと棚にあげていうのも

なんですが、ほかの村のもんにも顔むけできんように思うんです。あのひと、もっと村の

もんがめんどうみてあげねばいかなんだんです。しかし、あのひと自身にも悪いとこがあ

るんです。すっかりひがんでしもうて、ひとのいうこと、すなおにうけいれてくれんので

す。しかし、それやからいうて、あんなあさましいこと……ぼく、由紀ちゃんがかわいそ

うで、かわいそうで……それというのもぼくが湖水にしずめたりしたもんじゃけん。

……」

 浩一郎は手ぬぐいを眼をおしあてて男泣きに泣きだした。

 金田一耕助は警部のほうを見て、

「警部さん、どうです、これくらいで……」

 磯川警部はうなずくと、

「北神君、いまのきみの話が事実としても、いや、事実としたら、死体遺棄というなにが

あるんだから、こらままかえすわけにゃあいかんよ」

「はあ、それはもう覚悟しとります」

 嗚お咽えつする北神浩一郎が清水巡査に手をとられて出ていくと、木村刑事がフーッと

鯨が潮を吹くようなため息をもらした。

「これはまた妙な事件ですな」

「しかし、浩一郎の話をきいてみると、あの男のやったことも、まんざらむりとも思えん

な。もとより許しがたいことではあるが……」

「そうです、そうです。そうするとまた康雄がくろくなってきましたね。山越えの途中で

眠りこけてしもうたなんて……警部さん、もう一度康雄をひっぱってきましょうか」

 腰をうかしかける木村刑事を、

「あっ、刑事さん、ちょっと待って……」

 と、金田一耕助が手でおさえて、

「九十郎はまだここの留置場にいるんでしょう」

「はあ、今日あたり送ろうと思うているんですが……」

「ああ、そう、それはさいわい、ちょっとここへ呼んでくれませんか。もう一度ききたい

ことがあるんだが……」

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