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蜃気楼島の情熱 三(1)
日期:2023-12-15 16:53  点击:237

 志賀泰三が瀬戸内海の小島(沖の小島という)に建てた竜宮城のような建物は、新聞や

雑誌にも報道されてちょっと評判になっていた。

 それは日本趣味とも支那趣味とも、飛鳥あすか天てん平ぴようとも安土桃山時代ともつ

かぬ、摩ま訶か不思議な構造物の混血児だが、見るひとのどきもを抜くには十分だった。

「なあに、よくよくみるとチャチなもんでね。材料やなんかも安っぽいもんで、それを極

彩色に塗りたくって誤魔化してあるというもんなんだが、結構だけは相当なもんだな。あ

いつがああいう家を建てようとは思わなかった。結局、あれはアメリカ主義で、アメリカ

人の見た東洋趣味が、あそこに圧縮されているのかもしれない」

 久保銀造はその家についてそう説明した。

「奥さんはこの土地のひとですか」

「ああ、そう、さっき話の出た村松ね、名前はたしか恒つねしといったと思うが、そのひ

とがこの町のお医者さんなんだ。静子というのはみなし児で、村松さんのところで看護婦

をしてたんだが、それを戦後アメリカからかえってきた志賀のやつが見染めてね。村松さ

ん夫婦の媒酌で結婚したんだ。自慢するだけあってなかなかべっぴんだよ」

「まだお若いんですか」

「若いも若いも、二十三か四だろう。結婚したのは一昨年だったがね。それからだよ、あ

いつひげを生やしたり、髪をきれいになでつけたりしはじめたのは、もとはわれわれ同様

もっとラフな男だったがな」

「いまでもその感じはありますな。とても無邪気で、……しかし、そういう奥さんに子供

が出来るとなると、ああして有頂天になるのもむりはありませんね」

「あいつもいよいよ有う卦けにいったかな」

 銀造もわがことのようによろこんだが、しかし、必ずしも有卦に入ったのではないこと

は、それから間もなくわかった。

 それはさておき、十二時少しまえになって、村松家から女中が懐中電灯をもって迎えに

きた。

 沖の小島の旦那様は、お酒に酔うてひとあしさきに艀はしけにいらっしゃいましたか

ら、みなさまもこれからおいでくださいますようにという口上だった。

 その女中の案内で船着き場まできた銀造は、そこに碇泊しているランチを見て、思わず

大きく眼を見張った。

 あとで聞くと、それが志賀泰三の自家用ランチだそうだが、まるで竜顔げき首のうえ

に、お神輿みこしをくっつけたような恰好をしている。なるほど竜宮城のあるじの船とし

てはこうあるべきなのだろう。金田一耕助はちょっと頰ほほ笑えましかった。

 志賀泰三はそのランチのそばに、ぐでんぐでんに酔払った恰好で立っていた。足下もお

ぼつかない模様なのを、二十七、八の青年が肩でささえて、

「おじさん、危いですよ、危いですよ」

 と、ハラハラするように注意をしている。

「志賀さん、どうしたんだね。ひどくまた酔っ払ったもんじゃないか」

「ああ、こ、これは久保さん、き、金田一先生も……し、失礼。だけどな、だけどな。こ

こ、これが酔わずにいられよか。あっはっは」

 乾いたような笑い声をあげる志賀泰三の眼には、涙のようなものが光っている。

「どうかしたんですか。お通夜の席でなにかあったんですか」

「はあ、あの、……おやじがつい、よけいなことをおじさんのお耳にいれたもんだから。

……失礼しました。ぼく村松の長男で徹とおるというもんです」

 ズボンに開かい襟きんシャツ一枚の徹は、陽にやけたたくましい体をしている。なんと

なくうさん臭そうな顔色で、銀造と耕助の顔を見くらべていた。

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