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蜃気楼島の情熱 三(2)
日期:2023-12-15 16:54  点击:289

「おじさん、お客さんがいらしたんだから、さあ、乗りましょう。ランチはぼくが運転し

ます。滋しげるのことは許してください。あいつも、もう仏になったんですから」

「うう、うう、許すも許さんも……だけど、おれはなんだか変な気になった」

 志賀泰三はバリバリと髪の毛をかきむしる。金田一耕助と久保銀造は、思わず顔を見合

わせた。

「おじさん、おじさん」

 徹は泣き出しそうな声である。

「志賀さん、しっかりしたまえ。徹君が心配してるからとにかく船に乗ろう。われわれも

いっしょに乗るから。さあ……」

「ああ、久保さん、すまん、すまん、こんな狂態をお眼にかけて……き、金田一先生、

す、すみません」

 徹に抱かれるようにして、志賀泰三はランチに乗り込む。久保銀造と金田一耕助もその

あとにつづいた。

 ランチのなかにはビロードを張りつめた長い腰掛けがある。志賀はゴロリとその腰掛け

によこたわると、駄々っ児のように両脚をバタバタさせながら、なにやらわけのわからぬ

ことをくどくどいっていたが、急にしくしく泣き出した。

「どうしたんですか、徹君、なんだかひどく動揺しているようだが……」

「はあ、すみません、おやじがあんなことを打ち明けなければよかったんです。いま、す

ぐ船を出します」

 徹が運転台へうつると、すぐランチが出発する。

 嵐はだんだん強くなってくるらしく、雨はまだ落ちてこなかったが、風が強く、波のう

ねりが大きかった。空も海も墨をながしたように真暗で、そのなかにただひとつ、明るく

かがやいている沖の小島の標識灯をめざしてランチは突進していくのである。

 志賀泰三のすすり泣きは、まだきれぎれにつづいている。それを聞いているうちに、金

田一耕助はふっと、物の怪けにおそわれたようなうすら寒さをおぼえた。

 志賀泰三は腰掛けのうえで、しくしく泣きながらてんてん反側していたが、急にむっく

り起きなおると、

「ああ、そうそう、久保さん」

 と、涙をぬぐいながら声をかけた。

「はあ……」

「さっきいい忘れたが、樋上四郎がいまうちにいるんです。樋上四郎……おぼえてるで

しょう」

 それだけいうと、志賀泰三はまたゴロリと横になって、もう泣かなくなったけれど、そ

れっきり口をきかなくなった。

 金田一耕助と久保銀造は、思わずギョッと顔を見合わせる。

 樋上四郎というのは、その昔、志賀の細君だったイヴォンヌを殺した男ではないか。

 金田一耕助はふっと怪しい胸騒ぎをおぼえて、仰向けに寝ころんでいる志賀のほうへ眼

をやった。久保銀造も同じ思いとみえて、食いいるように志賀の顔をにらんでいる。じっ

と眼をつむっている志賀の顔は物もの凄すごいほど蒼あお白じろく冴さえて、なにかし

ら、悲痛な影がやどっている。

 金田一耕助と久保銀造は、また、ふっと顔を見合わせた。

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