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蜃気楼島の情熱 五(1)
日期:2023-12-15 16:56  点击:253

「おやじがあんなことを云わなければよかったんです。いかに弟の遺言だからって、おじ

さんの気性をよく知ってるんだから、いうべきじゃなかったんです。ただ、しかし、おや

じもまさか、こんなことになろうとは思わなかったろうし、それにおじさんに謝りたいと

いう気持ちもわかるんですが……」

 おそく起きてこの変事をしった徹は、愕がく然ぜんたる顔色で、おじさんに悪かった、

静子さんに気の毒だと、しきりに繰りかえしていたが、そこを金田一耕助と久保銀造に問

いつめられて、やっとしぶしぶ口をひらいた。

「これはわれわれにとっても、思いもよらぬことだったんですが、病いが改まっていよい

よもういけないと覚悟をきめたとき、滋がこんなことを告白したんです。静子さんと弟

は、静子さんの結婚まえ、つまりうちでまだ看護婦をしていた時分、恋愛関係があったと

いうんです。だから、静子さんは結婚したとき、処女ではなかったし、しかもその交渉は

静子の結婚後も、ひそかにつづけられていたというんです」

 金田一耕助と久保銀造は顔見合わせてうなずきあった。昨夜以来の志賀の言動から、ふ

たりはだいたいそのようなこともあろうかと想像していたのである。

「そして、そのことを昨夜、お通夜の席で村松さんがおっしゃったのかな」

 銀造の口調はきびしかった。徹は身もちぢむような恰好で、愁然と頭をたれながら、

「はい。それが滋の遺言でしたから。……滋はおじさんにすまなかった。悪いことをした

といいつづけ、じぶんが死んだらおじさんにこのことをうちあけて、よく謝ってくれとい

いつづけて死んだものですから……」

「いくら故人の遺言だからって、静子さんの立ち場もかんがえないで……」

 銀造の顔にはげしい憤りがもえている。言葉も強く、するどかった。

「はあ、あの、まったくそうなんです。しかし、父としては媒酌人としての責任もありま

すし、一応、耳に入れるだけは入れておこうと……まさか、こんなことになるとは思わな

かったでしょうから……」

「なんぼ媒酌人としての責任があるからって、そ、そんな非常識な……」

「おじさん、まあまあ、しゃべってしまったものは仕方ありませんよ。ところで、徹さ

ん」

「はあ」

「あなたはまさかこんなことになるとは思わなかったから、お父さんが秘密をうちあけた

とおっしゃるが、そうすると、お父さんが秘密をうちあけたから、こんなことになった。

……ということは、志賀さんが静子さんを殺したんだとおっしゃるんですか」

 徹はギョッとしたように顔をあげ、金田一耕助の顔を見直すと、やがて声をひそめて、

「じゃおじさんじゃないんですか。だれかほかに……」

「いいえ、それはまだわかりません。こういうことはよく調査したうえでないと、軽々に

は判断はくだせないものです」

「失礼しました。ぼ、ぼく……昨夜の今朝のことですし、おじさんが非常な激情家だって

ことしってますし、それに……それに、昔、アメリカで、おじさん、やっぱり同じような

ことやったって話聞いてますから……」

「しかし、あれは志賀がやったことじゃなかったんだよ。犯人はほかにあったんだ!」

 銀造は怒りをおさえかねて怒鳴りつける。徹はしどろもどろの顔色ながら、しかし、ど

こかしぶとい色をうかべて、

「はあ、あの、それは……おじさんもそう云ってました。しかし、何分にも遠い昔の、し

かもアメリカでの出来事ですから……」

「そ、それじゃ、君は……」

「おじさん、まあまあ、いいですよ。それより徹さん、もうひとつお訊ねしたいことがあ

るんですが……」

「はあ」

「滋君と静子さんの交渉は結婚後もつづけられていたとおっしゃるが、いつごろまでつづ

いていたんですか」

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