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蜃気楼島の情熱 五(2)
日期:2023-12-15 16:57  点击:231

「はあ、あの、それなんです。それがあるから、父は面目ないというんです。ふたりの関

係は滋が大だい喀かつ血けつをして倒れるまで、すなわち、三月ほどまえまでつづいてい

たというんです。だから、ひょっとすると、静子さんの腹の子は……」

 徹もさすがにそれ以上はいいかねたが、それを聞くと耕助と銀造は、ギョッとしたよう

に顔見合わせた。銀造は怒りに声をふるわせて、

「そ、そ、そんなことまでいったのか!」

「はあ、あの、それが一番だいじなことですから。……云いだしたからにはそこまでいわ

なければ……しかし、しかし、やっぱり父が悪かったんです。全然、云わなければよかっ

たんです」

 銀造が何かきびしい口調で怒鳴りつけようとするところへ、老女のお秋が入ってきた。

「久保の旦那様、ちょっと旦那様のところへ来ていただけないでしょうか。わたしどもで

はちょっと……」

「ああ、おじさん、いってあげてください。そのかわりお秋さん、あなたここにいてくだ

さい。ちょっとお訊ねしたいことがありますから」

「はあ」

「耕さん、じゃわしはいってくる」

 銀造は憎々しげな一いち瞥べつを徹にのこして、そそくさと部屋から出ていった。徹は

もじもじしながら、

「ぼくもそろそろかえりたいんですが……きょうは弟の葬式ですから」

「葬式は何時ですか」

「三時出棺ということになってるんですが、いろいろ仕度がありますから」

 徹は心配そうに外を見ている。昨夜から見ると風はいくらかおさまったけれど、そのか

わり大土砂降りになっていた。

「ああ、そう、それじゃおかえりにならなきゃなりませんが、そのまえにお訊ねがもうひ

とつ」

「はあ、どういうことですか」

「このへんに、どなたか入れ眼をしているひとがありますか」

「入れ眼?」

「お心当たりがありますか」

「入れ眼が、ど、どうかしたんですか」

「いや、お心当りがありますかって……」

「入れ眼なら滋さんがそうでしたね。右の眼がたしか入れ眼だとか……」

 お秋の言葉に金田一耕助は、思わず大きく眼を見張った。それから、口をすぼめて口笛

でも吹きそうな恰好をしたが、それをやめて、徹のほうにかるく頭をさげると、

「いや、お引きとめして失礼しました。それではどうぞお引き取りになって……」

 徹はもじもじと、何かさぐり出そうとするかのように、耕助の顔を見ていたが、やがて

諦あきらめたように肩をゆすると、

「お秋さん、自転車をかしてほしいんだが……」

「はあ、ところが、いまみると、その自転車がこわれてるんですよ。傘を出させますか

ら……」

 お秋は女中を呼んで傘を出すように命じた。徹は外の雨を気にしながら、しぶしぶ出て

いった。

 そのうしろ姿を見送って、耕助はお秋のほうにむきなおった。

「ねえ、お秋さん。こういうことになったら、何もかも腹蔵なくおっしゃっていただかね

ばなりません。多少、失礼なことをお訊ねするかもしれませんが……」

「はあ、あの、どういうことでしょうか」

 お秋は心配そうに体をかたくしている。

「露骨なことをお訊ねするようだが、奥さんはいつもああして……つまり、その、腰巻き

ひとつでおやすみになるんですか」

「とんでもない」

 お秋は言下に打ち消して、

「奥さまはそんなかたではございません。あのかたはとてもたしなみのよいかたでしたか

ら、裸で寝るなんて、そんな……」

「それじゃ、誰かが裸にしたと思わなければなりませんが、あの部屋には寝間着が見えな

かったんですがね」

「はあ、あの、それは敷しき蒲ぶ団とんの下に敷いてあるのじゃございませんか。奥さま

は万事きちんとしたかたで、お召し物などもいつも折り目のついたのをお好みになります

ので、お寝間着などお寝間をしくとき、ちゃんとたたんで、その下に敷いておきますん

で……」

「ああ、なるほど、道理で……」

 しかし、これはどういうことになるのか。静子は寝間着に着更えようとして、着物をぬ

いだところを絞め殺されたのだろうか。しかし、女が着物をぬぎかえるときには、誰でも

本能的に用心ぶかくなるものだ。

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