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蜃気楼島の情熱 五(3)
日期:2023-12-15 16:58  点击:286

 着物をぬぎすててしまってから、敷蒲団の下にしいてある、寝間着を取り出しにかかる

とは思えない。一応、寝間着を出しておいてから、着物をぬぐべきではないか。しかも、

着物はきちんとたたんで衣い桁こうにかかっていたのだ。

「ところで、昨夜お召しになっていた着物は、衣桁にかかっている、あれにちがいないで

しょうな」

「はあ、あれにちがいございません」

「奥さまは昨夜、何時ごろに寝所へおひきとりになりましたか」

「七時すぎでしたでしょうか。今夜は気分が悪いからとおっしゃって……」

「旦那さまがおかえりになったら、菊の間でおやすみになるようにとおっしゃったのはそ

のときで……?」

「はあ、さようでございます。わたしどもに用事があったらベルを鳴らすから、それまで

はさまたげないようにとおっしゃって……」

「それから今朝まで、奥さんにおあいにならなかったんですね」

「はあ、でも、十二時ちょっとまえでした。呼び鈴がみじかく鳴りましたので、お部屋の

まえまでおうかがいして、声をおかけしたんですけれど、御返事がなくて、寝返りをおう

ちになるような気配がしました。それで、間違ってベルを押されたのだろうと、ひきさ

がって参りましたので。……ベルの鳴りかたが、ほんとにみじかかったものですか

……」

「呼び鈴はどこに?」

「コードになって、枕許においてございます。寝ながらでも押せるように……」

 金田一耕助はしばらくためらったのちに、

「ところで、旦那様と奥さんのお仲ですがね。ふだんどういうふうでした」

「それはもう、あれほど仲のよいご夫妻ってちょっと珍しいんじゃないでしょうか。旦那

様はもう奥様のことといえば夢中ですし、奥様もとても旦那様をだいじになすって……」

 それは誰でも奉公人のいう言葉である。

「どうでしょうね。奥さんには旦那さまのほかに愛人があったというようなことは……そ

して、結婚後もひそかに関係がつづいていたというようなことは……」

 お秋はびっくりしたように、耕助の顔を見ていたが、急に瞼まぶたを怒りにそめると、

「金田一先生、あなたのことはさきほど久保さんからおうかがいいたしました。あなたの

ような職業のかたは、とかくそういうふうにお疑いになるのかもしれませんが、なんぼな

んでも、それではあたし心外ですよ。それはまあ、結婚以前のことはあたし存じません。

しかし、こちらへお嫁にこられてから、そんな馬鹿なこと。……これだけ大勢奉公人がい

るのですから。そういうことがあればすぐしれますし、第一、そんなかたじゃございませ

ん。しかし……」

 と、お秋は急に不安そうな眼の色を見せて、

「誰かそんなことをいうひとがあるんですか」

「いや、まあ、それはちょっと……」

 と、耕助は言葉をにごして、

「ときに志賀さんのご親戚といえば、村松さんしかないそうですが、あそこのかた、ちょ

くちょく……?」

「はあ、それはよくいらっしゃいます。奥様の娘時分、あそこのおうちにいられたんです

から、田た鶴ず子こさんなど、しょっちゅういらっしゃいます」

「田鶴子さんというのは」

「さっきここにいらした徹さんの妹さん、お亡くなりになった滋さんの下で、ことし二十

におなりとか……奥さまとはご姉妹のようになすって……」

「なるほど、それからほかには……」

「ちかごろは先生が一週に一度はいらっしゃいます。奥さまが御妊娠なすってから、旦那

さまがとても御心配なさいますので……一昨日もいらっしゃいました」

「一昨日というと、滋君というひとが……」

「はあ、ですから、先生は滋さんの死に目におあいになれなかったそうで。……それです

から、奥さまが悪い、悪いと気になすって……」

 金田一耕助が何かほかに聞くことはないかと、思案しているところへ、対岸の町から係

官がどやどやと駆けつけてきた。

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