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蜃気楼島の情熱 九(2)
日期:2023-12-15 17:02  点击:272

「それにここの主人、若いときにもアメリカで細君をやったというじゃありませんか」

 銀造の顔にはいまにも爆発しそうな憤ふん懣まんの色がうかがわれたが、金田一耕助は

いよいようれしそうにもじゃもじゃ頭をかきまわす。

「金田一さん、金田一さん、どうしたんです。あんたがその頭をかきまわすとどうも臭

い。何かしってるなら教えてください」

「失礼しました。警部さん、それじゃお秋さんをここへ呼んでください」

 お秋はあの腕輪をみると眼をまるくして、言下に静子のものだと断言した。そして、そ

こに安産のお守りが入っているから、肌身はなさず、寝るときだって身につけていたとい

う。

「それで、お秋さん、あなたがさいごにこの腕輪をごらんになったのはいつでした」

「きのうの夕刻のことでした」

 と、これまたお秋は言下に答える。

「ご妊娠なさいましてからは、奥さまのご入浴のさい、いつもあたしがお背せなを流して

さしあげることになっているんですが、きのうの夕刻ご入浴なさいましたとき、その腕輪

をはずして、脱衣場の鏡のまえにおいてあるのを、あたしはたしかに見ておぼえておりま

す」

「金田一さん、その腕輪、どこで見つけたんですか」

 磯川警部がちょっと呼吸をはずませた。

「いや、それはあとでもうしあげましょう。ところで、お秋さん、奥さんのことですが

ね。昨夜奥さんが外出されたというようなことは考えられませんか」

 お秋はそれを聞くと、ギョッとしたように耕助の顔を見なおしたが、やがて低い声で、

「そうおっしゃれば、あたし、不思議に思ってることがございますの」

「不思議というと……?」

「じつは、あの、ぶしつけな話でございますが、奥さまがお腰のもののしたにズロースを

お召しになってらしたってこと……」

「それがどうして不思議なんですか」

「奥さまは和服のときはぜったいに、ズロースをお召しにならないかたでした。ズロース

をはくと着物の線がくずれるし、また、ズロースをはいてるという気のゆるみから、無作

法なまねがあってはならぬとおっしゃって……ましてや、おやすみになるというのに」

「ああ、なるほど。しかし、洋装のときにはもちろんおはきになるんですね」

「ええ、それはもちろんですけれど……」

「それで奥さん、ゆうべ洋装で外出されたということは考えられませんか」

「はあ、あの、あたしどもにはよくわかりませんが、しかし、奥さまがだれにも内緒で、

日が暮れてから外出なさろうなどとは」

「しかし、金田一さん」

 と、そばから磯川警部が口を出した。

「ここの奥さんが外出したにしろしなかったにしろ、そのことはこの事件に大して関係な

いんじゃないかな」

「どうしてですか。警部さん」

「たとえ外出したにしろ、十二時にはこちらへかえっていたんですからな。お秋さんがベ

ルの音を聞いたのは十二時ごろでしょう。……それから一時ごろに殺されたとすれ

……」

「なるほど、なるほど、しかし、まあ、一応念のためにたしかめておきましょう。お秋さ

ん、奥さんの洋服ダンスを調べてみてくれませんか。ああ、そうそう、それから今朝、自

転車置き場のそばにある裏木戸が、なかからしまっていたかどうか、だれかに聞いてたし

かめてくれませんか」

「裏木戸なら今朝たしかに、うちがわからしまっておりましたそうです。それから、自転

車が泥だらけになってこわれているのが不思議だと……」

「ああ、そう、それではそのほうはかたづきました。では恐れいりますが、むこうへいっ

たら樋上四郎さんに、こちらへくるようにつたえてください」

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