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人面瘡 一(1)
日期:2023-12-18 11:07  点击:260

人面瘡

    一

「警部さん、警部さん、もし、磯いそ川かわ警部さん、恐れいりますが、ちょっと起きて

くださいませんか。もし、磯川警部さん」

 障子のそとから気ぜわしそうに呼ぶ声に、やっとうとうとしかけていた金田一耕助は、

はっと浅い夢を破られた。

 じぶんを呼んでいるのかなと、寝床のうえで半身起こした金田一耕助が、片かた肘ひじ

をついたまま聞き耳を立てていると、ふたたび、

「警部さん、警部さん、もし、磯川警部さん、ちょっと……」

 と、切迫した男が障子のそとで喘あえぐようである。それは金田一耕助を呼んでいるの

ではなく、枕まくらをならべてそばに寝ている磯川警部を呼んでいるのである。

 若い男の声で、だいぶんせきこんでいるようだが、かんじんの磯川警部は寝入りばなと

みえて、灯りを消した座敷のなかで健康そうな寝息がきこえる。

 金田一耕助が枕下の電気スタンドをひねると、陽にやけた磯川警部の顔がはんぶん夜具

に埋まっていた。みじかく刈った白髪が銀色に光って、地頭がすけてみえている。

「警部さん、警部さん」

 と、金田一耕助が寝床から体をのりだして、

「起きなさい、起きなさい。だれかがあなたを呼んでいらっしゃる」

 と、蒲ふ団とんのうえから体をゆすると、磯川警部ははっとしたように眼を見開き、

「えっ!」

 と、下から金田一耕助の顔を見ていたが、急に寝床のうえに起きなおると、

「先生、な、なにかありましたか」

「いや、わたしじゃありません。縁側からどなたか呼んでいらっしゃる……」

「えっ?」

 と、寝間着にきてねた浴衣のまえをつくろいながら、磯川警部が縁側のほうへむきなお

ると、障子の外に懐中電灯をもった男の影がちらちらしていた。

「だれ……? そこにいるのは……?」

「ぼくです。警部さん、貞さだ二じです。ちょっとお願いがあってまいりました。恐れ入

りますがこっちへ顔をかしてくださいませんか」

「なあんだ。貞二君か」

 と、磯川警部は寝床から起きあがると、黒いくけ紐ひもを締めなおしながら、

「いったい、どうしたんだい、いまごろ……?」

 と、障子の外へ出ていった。

 貞二君というのは宿のひとり息子である。

 金田一耕助はそのうしろ姿を見送っているうちに、ふっと夜更けの肌はだ寒ざむさをお

ぼえたので、夜着をひっぱってふかぶかと寝床のなかにもぐりこんだが、うとうとしかけ

ているところを起されたせいか、なかなか寝つかれそうになかった。

 障子の外では磯川警部と貞二君が、なにか早口にしゃべっていたが、やがて警部が障子

のすきから顔をのぞけて、

「金田一さん、ちょっと母屋のほうへいってきますから……」

「ああ、そう、なにか……?」

「はあ、貞二君の話によると、なにかまたやっかいなことが起ったらしい。ひょっとする

と、またお起しするようなことになるかもしれませんが、それまではごゆっくりとお休み

ください」

「金田一先生、夜分お騒がせして申訳ございません」

 と、貞二君も磯川警部の背後から顔をのぞけた。

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