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人面瘡 三(1)
日期:2023-12-18 11:11  点击:275

「金田一先生」

 と、磯川警部は呼吸をのむように、

「よく小説や物語なんかに人じん面めん瘡そうというのがありますが、ひょっとするとこ

れがそうではないでしょうかねえ」

 磯川警部のそういう声は、押し殺したようにふるえている。なんとなく咽の喉どのおく

がむずかゆくなるような声である。

 金田一耕助はそれには答えず、無言のまま喰いいるようにその気味悪い腫はれ物ものを

眺ながめている。

 じっさいそれは世にも薄気味悪い腫物だった。土左衛門のようにぶよぶよとして、眉ま

ゆ毛げのあるべきところに眉毛がないのが、ある種の悪い病気をわずらっている人間の顔

のようである。眼のかたちはありながら、眼球のあるべきところにそれがなかった。唇く

ちびるをちょっと開いているように見えるのだが、唇のあいだには歯がなかった。

 ちょうどそれは彫ちよう塑そ家が人間の首をつくろうとして、なにかのつごうで途中で

投げだしたような顔である。そういえばちょうど粘土細工のような顔で、色なども土色を

している。

 金田一耕助がそっと指でおさえてみると、ゴムのようにぶよぶよとした手触りだった。

「ふうむ!」

 金田一耕助はおもわず太いうなり声を吐き出すと、貞二君のほうをふりかえった。

「このひと、昔からこんなものがあったんですか」

 貞二君はギラギラと脂のういたような眼をひからせながら、強く首を左右にふって、

「そんなことしるもんですか」

 と、きたないものでも吐きすてるような調子である。

「しっていたら、そんな気味の悪い女、一日だって家におくことじゃありません。とっく

の昔に叩たたき出してしまってまさあ」

 と、恐ろしく残酷な口調でいったが、それでもさすがに気がとがめるのか、こんどは急

に弱々しい口調になって、

「しかし、そういえばこの夏頃から、松代はほかの女といっしょに風呂へ入ることをき

らって、いつも夜おそく、ひとりでこっそり入っていたそうです」

「そうすると、これが妹の由紀ちゃんの呪いというんですかねえ」

 金田一耕助はもういちど、その奇怪な腫物を入念にのぞきこんだが、そのときそばから

磯川警部が口をはさんで、

「いや、そういえばその顔は、どこか由紀子という娘に似てるようだと、ほかの女中たち

がいってるんですがねえ」

 金田一耕助はその言葉を聞いているのかいないのか、医者が難症患者を診療するような

入念さで、その腫物をしらべていた。

 と、そこへあわただしい足音をさせて、男衆らしい男がふたり、提灯をぶらさげたまま

障子の外からとびこんできた。

「若旦那、たんへんです。たいへん……」

 と、息を喘はずませていいかけたが、そこにいる金田一耕助に気がつくと、はたとばか

りに口をつぐんでたがいに顔を見合せている。

「いいんだ、いいんだ、万まん造ぞう」

 と、貞二君はもどかしそうに腰をうかして、

「由紀ちゃんのいどころはわかったのか」

「は、はい……」

「いいんだ、いいんだ。こちらは構わないかたなんだ。由紀ちゃんはどうしたんだ。いっ

たいどこにいるんだ」

 と、まるで嚙かみつきそうな調子である。

「はい、あの、それが……」

「それがいったいどうしたというんだい。もっとはっきりいわないか」

「はい、あの、すみません」

 と、万造はあまりすさまじい貞二君の権幕に、いっそうおどおど度を失って、

「あの……稚ち児ごが淵ふちに死体となってうかんでいるんです」

「稚児が淵に死体となって……?」

 貞二君ははじかれたように立ちあがった。金田一耕助と磯川警部はおもわずぎょっとし

た眼を見交わせた。

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