行业分类
人面瘡 四(1)
日期:2023-12-18 11:12  点击:292

 金田一耕助はまたいそがしくなりそうだった。

 この男はよっぽど貧乏性にうまれついているとみえて、ゆっくり静養もできないよう

に、いたるところに事件が待ちうけているらしい。ことにこの事件のばあい、かれはひと

かたならぬ興味と好奇心にもえていた。松代の腋の下にあるあの奇怪な肉腫に、かれはこ

のうえもなく興味をそそられるのだ。

 人じん面めん瘡そう。──

 人面の顔をした肉腫に関する伝説は、日本にも中国にも、古くから語りつたえられてい

る。なかには人面瘡が人間の声で歌を歌ったなどという、奇抜な伝説さえのこっている

が、それらの多くはとるに足らぬ浮説で、科学的にはなんの根拠もなさそうだった。

 たまたま、肉腫に生じた皺しわや凸凹が、眼、鼻、口に符節しているところから、その

ような伝説が生じたのであろう。

 ところが、ゆうべ金田一耕助の見た人面瘡は、そんな怪しげなものではなさそうだっ

た。

 ふたつの眼は単純な皺などではなくて、はれぼったい瞼まぶたをひらけば、そこに水晶

体の眼球があるにちがいないと思われた。

 鼻も偶然の凸所などではなくて、不完全ながら、ふたつの鼻び孔こうをそなえているよ

うに見えるのだ。

 唇もいろこそ悪いが、たしかに人間の唇のようにみえ、それを開くとそのおくに、歯な

みがあるのではないかと思われた。

 それでいてその顔は、野球のボールくらいの大きさなのである。

 南洋の土人のなかには、人間の生首を保存する方法をしっている種族がある。

 それには頭ず蓋がい骨こつを抜きとってしまうのである。頭蓋骨をぬかれた首は、野球

のボールくらいの大きさに収縮するが、それでもなおかつ、もとの顔のかたちを完全に

保っているのである。

 金田一耕助もある大学の医学教室に、そういう生首の標本が保存してあるのをみたこと

があるが、ゆうべ見た松代の人面瘡からうける感じは、そういう生首によく似ていた。

 昨夜──と、いうより今暁思わぬ活躍をした金田一耕助は、明方ごろやっと眠りについ

て、眼が覚めたのは十一時ごろだった。

 朝昼兼帯の食事をすませた金田一耕助が、縁側へ籐とう椅い子すをもち出して新聞を読

んでいると、谿けい流りゆうの音にまじって、どこかで蟬せみがないているのが聞える。

夜は冷えこむが日中はまだまだ暑いのだ。

 新聞にはべつに変ったことも出ていなかった。金田一耕助はそれを小卓のうえに投げ出

すと、ぼんやりとゆうべ見た人面瘡のことを考えていたが、そこへ磯川警部が庭のほうか

ら汗をふきながらやってきた。

「やあ、お早うございます」

「お早う……と、いう時刻じゃありませんがね」

 と、金田一耕助は白い歯を出してわらいながら、

「警部さんはゆうべ眠らなかったんでしょう」

「はあ。……でも、こんなこと慣れてますからな」

 と、磯川警部は赤く充血した眼をショボショボさせながら、それでも元気らしく、金田

一耕助のまえの籐椅子にどっかと腰をおろした。

「お元気ですねえ。警部さんは……ぼくはどうも睡眠不足がいちばんこたえます。意気地

がないんですね」

「なあに、こちとらは先生みたいに脳ミソを使いませんからな。頭を使うひとにゃ睡眠不

足がいちばん毒でしょう」

「ときに、検けん屍しは……?」

「はあ、いますんだところです」

「死因は……?」

「解剖の結果をみなければ厳密なことはいえないわけですが、だいたいにおいて、溺でき

死しと断定してもよろしいでしょうねえ」

小语种学习网  |  本站导航  |  英语学习  |  网页版
09/22 04:11
首页 刷新 顶部