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人面瘡 四(3)
日期:2023-12-18 11:13  点击:230

「それで、溺死の推定時刻は……?」

「昨夜の九時ごろ……九時を中心として、前後の一時間くらい幅をもたせた時刻だろうと

いうんですがねえ」

「すると、昨夜の八時半から九時半までのあいだということになりますが、そんな時刻に

女が泳ぎにいくというのはねえ」

 金田一耕助は昨夜、廁の窓から松代のすがたを目撃した時刻を思い出していた。

 あれはたしか午前一時ごろのことだったが、してみると、あの時刻の松代の行動と、由

紀子の溺死とのあいだには、直接にはなんの関係もないわけだ。

「ところで、松代は由紀子の死の責任がじぶんにあるように考えているようですが、その

時刻……由紀子が溺死したと思われる時刻における松代の行動は……?」

「さあ、それが妙ですよ。昨夜、松代はわたしたちの座敷につききりでしたよ」

 じつは昨夜、金田一耕助と磯川警部は名月を賞めでながら、柄にもなく運座としゃれこ

んだのである。その席には貞二君もつらなっていた。

「あの娘はおとなしくて目立たないから、先生はお気づきだったかどうですか、終始この

座敷にいましたよ」

「いや、それはわたしも気がついてましたよ。じぶんも俳句が好きだとかいってました

ね」

「ええ、そう、ですから、あの娘が直接手をくだして、由紀子を殺したというのはおかし

いんです。なにかそこに事情があることはあるんでしょうがねえ」

「貞二君は火傷の男が怪しいとかいってましたね。ありゃ、いったいどういう男なんで

す?」

「ああ、あの男……あれは田た代しろ啓けい吉きちといって大阪からきてるんですが、由

紀子の昔の識しり合あいらしいんですね」

「なるほど、すると、由紀子を追っかけてきた……と、いうわけですかね」

「まあ、そこいらでしょうねえ。ときおり、由紀子とひそひそ話をしているのを見たもの

があるといいますし、それに、あの男がきてから、由紀子はすっかりヒステリックになっ

ていたと、ほかの奉公人たちもいってるんです」

「それで、その男のアリバイは……?」

「ところが、それがちゃんとあるんですね。女中がふたり宵から十二時ごろまで、あの男

の部屋でおしゃべりをしていたというんです」

「なるほど、それじゃ……」

「ええ、それほどふかい馴な染じみでもない客のために、女中がふたりまで、偽証すると

は思えませんしねえ」

「貞二君は昨夜、われわれといっしょにいましたねえ」

 金田一耕助はしばらく黙ってかんがえていたが、やがて思い出したように、

「由紀子は昨夜、なにをしていたんですか」

「はあ、あの娘はちかごろ眼をわずらっていて、客のまえへは出ないことにしていたそう

です。それに貞二との問題がこじれているところへ、なにかひっかかりのあるらしい田代

という男がやってきたりしたので、すっかりヒステリーを起していたんですね。ちかごろ

はとかく部屋にひっこもりがちだったというんですが、まあ、そうでなくてもムシャク

シャしているところへ、眼が悪くなっちゃ、いっそう憂うつになるわけでしょう」

「ここの湯は眼病にきくというのに、どうして眼をわずらったりしたのかな」

「それも稚児が淵で泳いだたたりだっていってますよ。田舎のものはたあいがありません

からね。あっはっは」

 金田一耕助はゆっくりとたばこを吸いつけた。それからしばらくよく晴れた空へまいあ

がる、煙のゆくすえを眺めていたが、やがておもむろに磯川警部のほうへむきなおった。

「それじゃ、さいごに貞二君を中心とした、松代と由紀子の三角関係についてきかせてい

ただきましょうか」

「承知いたしました」

 金田一耕助の質問に応じて、磯川警部の語って聞かせた事情というのは、だいたいつぎ

のとおりである。

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