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第一章 汝夜歩くなかれ--明かずの窓(3)
日期:2023-12-19 16:27  点击:237

「キ、キ、キ、貴様、貴様、貴様」

「貴様がどうかしたかい。あっはっは、そうしてるところはさっきの男にそっくりだ。貴

様ももう五、六年すると、あのとおりになるだろうぜ」

 蜂屋は椅い子すに腰をおろしたまませせらわらっている。守衛はぜいぜい肩でいきをし

ながら、何かいおうとするらしかったが、適当な言葉のうかばぬもどかしさに、地団駄を

ふんでいたが、やにわに猿えん臀ぴをのばして、ピアノのうえにあった花瓶をとりあげ

た。

「危ない!」

 私は椅子を蹴けって立ち上がったが、そのとたん、首をすくめた蜂屋の頭上すれすれ

に、花瓶はとんでポーチにあたって砕けてちった。

「ちき生」

 蜂屋もさすがに怒気満面、椅子を蹴ってとびあがったが一瞬早く、八千代さんがふたり

のあいだに割って入った。

「お止しなさい。バカらしいわ。きょうはみんなよっぽどどうかしてンのね。陽気の加減

かしら。喧けん嘩かはよしたっと。兄さん、向こうへいきましょうよ」

 守衛の手をとってさっさと廊下へ出てしまった。

 蜂屋はギリギリ歯をかんでいる。しばらく燃えるような眼をして、廊下のほうをにらん

でいたが、ふと、私の視線に気がつくと、さすがにきまりが悪かったのか、どっかと椅子

に腰をおとした。

「フフン。とんだ災難だ。さっきは真まっ向こう唐竹割り、今度は花瓶で頭割り、おい、

これが古神家の客に対する礼儀かい」

「おれはこの刀をしまって来る」

 直記も立ってそそくさと部屋を出ていった。

 あとには蜂屋と私のふたりだけである。蜂屋はいまいましそうに直記のうしろすがたを

見送っていたが、やがてその眼を私のほうに戻すと、探るように顔を見ながら、

「おい、君はここへ何しに来たのだ」

 と、詰問するような調子である。

「別になにってわけはないがね。直記があそびに来いというものだから……」

「君はこの家をよく識しっているのかい」

 私は首を左右にふって、

「ううん、ぼくの識ってるのは直記だけだ。この家へ来るのは今日はじめてだし、ほかの

連中にあったのもこれがはじめてだ」

「直記とは……?」

「学校時代からの友達だ」

 蜂屋はニヤリと意地の悪い微笑をうかべて、

「ああ、そうか、売れもしない小説を書いてるくせに、君が相当ゼイタクな生活をしてい

るのは、どこかに金かね蔓づるを持ってるンだろうという評判だが、その金蔓というのは

あの直記の野郎だったのかい。つまり君はあいつの幇ほう間かんというわけだな、あっ

はっは」

 私はもうこういう侮辱に慣れているから別に腹も立たなかった。いや、腹は立っても、

それを顔色に出さぬだけの修練をつんでいた。

 蜂屋も拍子抜けがしたように、

「しかし、あの直記というやつも喰くわせものだぜ。座ざ敷しき牢ろうみたいななかへ、

変な女をかこっていやアがったが、二、三日まえにどこかへつれていってしまやアがっ

た。いったいどこへ連れていったのかな」

「座敷牢……?」

 私は驚いて蜂屋の顔を見直した。

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