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第二章 大惨劇--惚れ薬(2)
日期:2023-12-20 13:02  点击:284

「こいつはいけない。われわれが事件を発見してから既に一時間以上もたってるぜ。ぐず

ぐずしてると警察から、いたくない肚はらを探られるばかりだ。とにかく、向こうへいっ

て皆さんに、よく事情を話そうじゃないか」

 刀をもう一度金庫へおさめると、鍵をかけて今度は直記が自分でダイヤルを廻まわし

た。もうどんな用心も無駄だと思ったのかも知れない。

 それから母おも屋やの日本間へいくと、鉄之進は大あぐらをかいて、手て酌じやくでぐ

いぐいと冷酒を呷あおっていた。そばではお柳さまが、人形の様に冷たい顔をして毛糸の

編物をしている。この古風な、江戸時代の御ご後こう室しつ様といったようななりをした

お柳さまが、しかもこんな場合、平然として編物をしているのは、何んとなく矛盾をかん

じさせた。

 鉄之進はわれわれの姿を見ると、ギロリとした眼をおびえたように見張って、しばらく

こちらの顔色をうかがっていたが、やがてしゃがれたような声でたずねた。

「直記、殺されたのはどっちだい。蜂屋かい、守衛さんかい」

「蜂屋でしたよ、お父さん」

 直記がそっけない声でこたえた。

「直記さん、どうしてそれがわかって? 死体には首がないというのに」

 お柳さまが横から口をはさんだ。まるで今夜の献立てでも相談するような、落ち着きは

らった静かな声だ。こりゃひととおりの女ではない。……私はそのとき、そう思わざるを

得なかった。

「ええ、蜂屋の体には特徴のある目め印じるしがあるんです。あの死体にはたしかにそれ

がありましたから」

「まあ、目印ってなあに?」

「いや、それはあとでお話ししますがね、お父さん、屋代のいうのに、どうしてもこれは

警察へとどけなければいけないというんですが……」

「そりゃ、むろんのことだよ。殺人事件だからな。ときにこちら屋代さんというのかな」

「ええ、そう、まだ紹介していませんでしたな。こちら屋代寅とら太た君といって探偵小

説家、同郷のものですよ」

 探偵小説家──と、きいて鉄之進もお柳さまも、不思議そうな眼をして私の顔を見た。何

か奇妙な動物でも見るような眼つきだった。私はただ黙って頭をさげておいた。

「それじゃ、早速、源造にいって、交番へ走らせましょう」

 直記が縁側から源造の名を呼ぶと、すぐ源造がはしって来た。それに用事をいいふくめ

ておいて、もとの座へもどって来ると、直記は探るように父の顔を見ながら、

「お父さん、あなたは昨夜よく眠れましたか」

 と、いくらか口くち籠ごもりながら切り出した。

 鉄之進は大きく見張った眼で、まじまじと息子の顔を見ながら、

「よく眠れたかって……? わしが……? それはどういうわけじゃな」

「いや、どういうわけってありませんが……」

「直記さん、少しお父さんに忠告しなきゃ駄目よ。お父さん、ちかごろまたお酒が過ぎる

ようよ。昨夜も十二時ごろまで飲みつづけで……飲むだけならいいんだけど、あとの世話

がやけてかなやアしない」

 お柳さまはそういう言葉を、顔もあげずにいうのである。まるで編物に話しかけるよう

に。

「へえ……、昨夜また飲んだんですか。小母さん、そしてあなたは昨夜ずうっと、お父さ

んといっしょでしたか」

 お柳さまは顔をあげると、ちらっと素早い眼つきで、直記と私の顔を見たが、すぐまた

その眼を編物に落とすと、

「いいえ、十二時まではつきあっていたけれど、いつまでたってもきりがないから、十二

時になるとさっさと自分の部屋へかえって寝たわ。お父さんは酔いつぶれて、そのままご

ろ寝をしたようよ。だけど、直記さん、どうして?」

 どうして?……と、たずねると、お柳さまの耳たぼがボーッと紅あかくなった。それに

気がつくと、私はなんとなくいやアな、いやらしい感じになったものである。

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