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第二章 大惨劇--惚れ薬(4)
日期:2023-12-20 13:03  点击:280

 守衛の部屋は洋館の、八千代さんの部屋とは反対がわのところにある。部屋のまえには

お藤がおどおどした顔で立っていた。

「おれはまだ一度もこの部屋へ入ったことがないんだ。守衛というやつが変なやつでね。

妙に秘密癖を持っていやアがるんだ。昔は乳母のお喜多以外には、絶対に部屋へ入れな

かった。だからお喜多をおっぱらったときにゃおこりゃアがってね。ちかごろじゃ仕方が

ないから、お藤に掃除をさせるんだが、掃除をしているあいだじゅう、傍そばに立って張

り番をしているそうだよ」

 だが、その部屋も別にかわったところはなく、ふつう金持ちの独身者が住んでいる部屋

と、なんらえらぶところはない。

「お藤、スーツケースというのはいつもどこにおいてあったのだい」

「はい、洋よう簞だん笥すの横でございます。ほら、そこに跡がついておりましょう。そ

れに櫛くしだのブラシだの、ポマードだの身のまわりのこまごましたものが見えなくなっ

ております」

「ふうむ、それじゃいよいよ旅行に出たにちがいないな。おりもおり、何んだってあんな

体で……」

「姿をかくすにはかくすだけの理由があったんだね」

「屋代、それじゃ君はあの男が……」

 私はそれに答えなかった。しかし、そのときありありと私の眼にうかびあがったのは、

昨日、物もの凄すごい勢いで、蜂屋に花瓶を投げつけたときの守衛の表情だった。憎悪と

嫉しつ妬とにくるった、あのドスぐろく歪ゆがんだ顔……。

「まさか、守衛が……なるほどあいつは陰険なやつだ。ネチネチと女のくさったようにし

じゅう何か胸にたくらんでいる男だ。しかし、まさかあいつに、あんな大それた事をしで

かす度胸はあるまい」

「それはわからないよ、仙石、不具者の激情というやつは常人には理解出来ないところだ

からね。爆発すると普通の人間より恐ろしい」

 部屋を出ようとして振り返った直記は、ふとまた立ちどまってお藤を呼んだ。

「お藤、簞笥のうえにある袋戸棚には何が入っているんだい」

「さあ、何んでございますか。若わか旦だん那なはそれにさわることをひどくお嫌いにな

ります。いつかもわたくし、何んの気もなくそれに手をふれて、小っぴどくお叱しかりを

うけたことがございます」

 私たちは思わず顔を見合わせた。それは小さなマホガニー製の戸棚で、観かん音のんび

らきの扉には、ぴったりと錠がおりている。

「お藤、おまえ向こうへいっていていいよ。用事があったら呼ぶから」

「はい」

 お藤はすぐに立ち去った。

「おい、仙石、どうしようというのだ」

「あの戸棚をあけてみるんだ」

「止せ止せ、むやみにひとの、秘密をのぞくもんじゃないよ」

「構うもんか。あいつが犯人だとしたら、どうせ、何もかも洗いざらい調べられるんだ」

 戸棚には錠がかかっていたが、ナイフを使ってこじまわしていると、間もなく開いた。

中には薬局にならんでいるような広口瓶がいっぱいならんでいる。

「なんだ、こりゃア薬じゃないか。仙石、守衛さんはどこか体が悪かったのかい」

「知らないね。薬を常用してるたア思わなかった。いったい、何んの薬だろう」

 瓶の中には白いのや黒いのや、いろんな粉末が入っていた。粉末はほかに錠剤や丸薬も

あった。何かの黒焼きらしいのもあった。そして瓶にはいちいち名前を書いたレッテルが

貼はってあったが、それはいままで一度もきいたことのないような、片仮名の名前ばかり

だった。

 ところが、それらの瓶をひとつひとつ見ていくうちに、突然直記が大声をあげてゲラゲ

ラ笑い出したのである。場合が場合だったので、私が驚いて顔を見直すと、直記はいきな

り手に持っていた瓶を、私のほうへつきだした。

「見ろ、これを!」

 その瓶に貼ってあるレッテルを見ると、なんとこれが、

「いもりの黒焼」

「わかったよ、寅さん、守衛の奴は性的に不能者なんだ。いや、不能者というほどでなく

とも虚弱者なんだ。ときどきあいつのところへどこかから小包みがとどいたが、そういう

小包みが来ると守衛め、いつもひどくビクビクして、あわててかくしていやアがった。こ

こにある薬はみんな、東西の媚び薬やく、性欲昂こう進しん剤ざいなんだ」

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