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第二章 大惨劇--あいびき(4)
日期:2023-12-20 13:07  点击:223

「むろん、あたし、そんなこと真にうけやアしなかったわ。いかに人がかわったってあの

人に人殺しなんか出来るはずはないと思ってたのよ。駄々っ児ね、あの人は……だけどあ

まりしつこいものだから、あたしうるさくなって、いいかげんに約束をしてしまったの。

はじめから守る気なんかない約束を……」

「で、何時にあう約束だったんだ」

「十二時。かっきり十二時に洋館へしのんで来いというの。ほら、昨夜、夕食のあとで兄

さんだけが食堂へのこっていたでしょう。そこへあたしがおりていったとき、しつこくそ

のことについて念をおすのよ。もし約束を守らなければ、蜂屋のやつを殺してしまうっ

て……そういえば、あの時の兄さんの眼付き、ふだんとはだいぶちがっていたわ。でも、

あたし、そのときには別に気にもとめずに、うんうんて、いいかげんに返事をして別れて

しまった。そして、それきり寝てしまったのよ」

「しかし、そのことがあなたにとって、とても気になっていたので、真夜中ごろ、病気を

起こして、フラフラとはなれへ出向いていかれたのですね」

 八千代さんは弾はじかれたように私のほうへ振りかえった。そして、凄すごい眼付きで

まともから私をにらみながら、

「あたし……ほんとにいったのかしら……ちっともおぼえちゃいないんだけど……でも、

今朝はとても頭がいたくって……ええ、いつものあの病気を起こしたときと同じだった

わ。だから、ひょっとするとまた病気が起こったのではないかと眼がさめたとき、とても

心配で……でも、直記さん、あたし、ほんとに洋館へ出向いていったの?」

「うん、そのことについちゃ間違いないんだ。げんにわれわれ、屋代とぼくとは、君が歩

いているところを見たんだよ。それに蜂屋が殺された現場には、血ち溜だまりのなかにベ

タベタとスリッパの跡がいちめんについているんだ」

「まあ……」

 八千代は息をのんだ。血の気をうしなった顔は、質の悪い西洋紙のように黄ばんでカサ

カサしている。

「じゃ……あたし、やっぱり出向いていったのね。そして、そして血のなかを歩きまわっ

て来たのね。まあ、恐ろしい、自分ではちっとも知らないのに。……ねえ、直記さん、あ

なた、信じてくれるでしょう。あたしの病気のことを……あたし、ちっとも知らないの

よ」

「うん、そりゃ……病気だから仕方がないさ。お巡りさんが来たらそのとおり申し立てる

んだね」

 直記がくらい顔をしていった。なんとなく沈んだ声だった。

「ところで、八千代さん」

 と、そこでまた私が横から口をはさんだ。

「あなたが守衛さんとあいびきをする約束ですがね。そのことを蜂屋は知っていたかし

ら」

 それに対して八千代さんは言下にこうこたえた。

「いいえ、そんなことはありませんわ。あたしそんなバカなこと……しゃべったおぼえは

ないし、兄さんだってまさかそんなこと……」

「八っちゃん、おまえ昨夜蜂屋の部屋へ、食事を持っていってやったね。あのとき、蜂屋

はおまえに何をしたのだ」

 八千代さんはそれに対して恐ろしく眉をつりあげた。そしてまるできたない物でも吐き

すてるようにこういった。

「あいつはけだものよ。いやらしいけだものよ。ちょっとでも隙すきがあったらとびかか

ろうとしているのよ。あたし思いきりひっぱたいてやったわ。……蜂屋が殺されたってい

い気味だわ。だけど、だけど、あたし、何んだか信じられない。あいつが殺されるなん

て、ねえ、それはほんとうなの、そして……そして兄さんはどうしたの……」

 八千代さんの言葉つきは、しだいに前後の脈絡をうしなって来る。瞳めから妙に光がな

くなって、唇は紫いろにくちて来たかと思うと、椅子の両腕をにぎりしめたまま、いつか

彼女は気をうしなっていた。……

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