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第二章 大惨劇--お喜多婆ア(2)
日期:2023-12-20 13:10  点击:245

「いや、私はまるでその説に反対というわけでもありません。ひょっとすると守衛さんが

犯人かも知れない。しかし、犯人が誰であろうと、この事件はあなたがたがお考えになっ

ていられるほど、単純なものではないと思うんです」

「と、いうのは……?」

 沢田警視はあいかわらず、おだやかな微笑を眼のなかにたたえながら、あとを促すよう

に言葉をはさんだ。

「と、いうのは……ええ、それにはいろいろ理由がありますが、一番近い証拠は死体に首

のないことです。守衛さんが激情のあまり蜂屋を殺したとすれば、なんだって首を斬きり

落としていったのでしょう」

「なるほど」

「首を斬りおとして持っていく。それはずいぶん厄介な仕事でしょう。その厄介もいとわ

ずに、犯人がそんな事をやったとすれば、そこにそれだけの理由がなければならぬ筈はず

でしょう。とても一時の激情、発作的な殺人行為とは思えないじゃありませんか」

「そうおっしゃればそうですが、ほかにまだ理由がありますか」

「こんなことを申し上げると、作家の空想だとわらわれるかも知れません。故意に事件を

複雑に見ようとする、作家的な見方だと軽けい蔑べつされるかも知れません。しかし、ぼ

くにはどうしても、この事件が一時の激情から起こった発作的な犯行とは思えないんで

す。この事件の動機は昨日今日、ふいに持ち上がった問題じゃないと思われるんです。第

一蜂屋がこの家へやって来た……と、いうことからして、ぼくにはどうも、変に思われて

仕方がないんです。守衛さんという佝僂のいるところへ、同じような体の蜂屋がやって来

る。それからしておかしいじゃありませんか」

「すると、あなたはこの事件のかげには非常にあたまのいい計画者がいる。そしてこれは

念入りに計画された事件だとおっしゃるのですか」

「そうです。そうです。現に八千代さんのところへ舞いこんだ、脅迫状めいた手紙のこと

もあるし。……」

「えっ、脅迫状めいた手紙?」

 沢田警視がにわかに体を乗り出したので、しまったと私は心のなかで舌打ちした。直記

もこのことに関しては、まだ打ちあけてはいなかったらしい。しかし、なに、構うもの

か。どうせ、いずれは、打ちあけずにはいられぬことなのだ。

 そこで私が、先日直記からきいた、八千代さんにからまる因いん縁ねん話ばなし、それ

からひいて昨年八千代さんのところへ舞いこんだ三通の手紙のことを打ちあけると、沢田

警視は非常に興を催したらしく、しきりに顎あごを撫なでていたが、

「なるほど、なるほど、そいつは妙な話ですな。わかりました。そんなことがあるから、

あなたはこの屋敷へ招待されて来たんですね」

「ええ、まあ、そうなんです。なまじぼくが探偵小説など書いているものだから、直記が

ぼくを買いかぶったんです。探偵作家には主人公の探偵と同様、探偵的素質があると買い

かぶられたわけですね」

 沢田警視は濃い髭ひげのあとを撫でながら、おだやかにわらっていたが、

「いや、いまのお話はたいへん参考になります。なるほど、そういうことがあったとすれ

ば、激情的犯行とはうけとれなくなるわけですね。しかし、……」

 と、沢田警視は眉まゆをひそめて、

「いまのお話を承っていると、計画者が誰にしろ、何事かを企んでいるのは、古神家ある

いは仙石家に対してであるように思われる。それだのに、げんに殺されているのは、両家

に対して、あまり深い関係もありそうに思えない蜂屋小市氏ですね。これは多少妙じゃあ

りませんか」

「そうなんです。ぼくもそれを変に思っているんです。だから、ひょっとするとこれ

は……?」

「ひょっとすると、これは……?」

「いや、こんなことをいうと、また作家的空想だとわらわれるかも知れません。しかし、

ぼくにはなんだかこの事件は……即ち蜂屋殺しはこれだけですんだのではない。ひょっと

すると、これはつぎに起こる何かしら、恐ろしい事件の前奏曲ではないか……と、そんな

気がしてならないんです」

 私はいつか自分の言葉につりこまれていた。沢田警視のまえでこう述べ立てるとき、わ

れ知らず、強い戦せん慄りつが背筋をつらぬいて走るのを禁じえなかった。

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