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第二章 大惨劇--舞台は廻る(1)
日期:2023-12-20 13:21  点击:266

舞台は廻る

 古神家のこの事件は、非常に巧こう緻ちな計画をもってつらぬかれているのだが、悪魔

のようなこの計画者は、同時に小説家のような才能をもかねそなえているのである。いろ

んな発見は、いつも適当の間をおいてなされた。ひとびとがいくらかこの事件に退屈しは

じめると、活を入れるように何かしら新しい発見がなされた。

 お喜多婆アの登場がそうであったし、いままたこの恐ろしい生首の発見がそうである。

古神家はさながら、波状的におそって来る、台風のまえにさらされているようなもので

あった。ひとつの台風が去って、やれやれと小康状態に胸撫なでおろしていると、またつ

ぎの台風がやって来るのである。そして、そのたびに古神家は屋台骨まで、吹きとびそう

にゆさぶられるのである。

 私はこの恐ろしい発見を、まず、直記にだけ報しらせてやりたかった。しかし、四方太

のような男の口をしばらくでもふさいでおくことは出来なかったのである。

 昂こう奮ふんして、キーキーとわめき立てる四方太の口から、たちまちこの報道は家中

に知れわたった。明方ちかく、母おも屋やの日本間に集まったとき、みんなそれぞれち

がった意味で狂きよう躁そう状態におちいっていた。

 直記は私のしらせをきいて、すぐ源造とともに首をみにいった。そして、源造をそこに

張番にのこして、かえって来たかれの顔色は、まるで死人のように土色になっていた。

 鉄之進はまだ、ほんとうに覚めきっていないらしい。四方太の口から話をきいても、こ

の老人はまだ、ほんとうの恐ろしさがわかっていないようである。頭をかかえて、ぼんや

りとあらぬかたを眺めながら、それでもときどき、はげしい戦せん慄りつの発作におそわ

れている。

 日ひ頃ごろ、憎らしいほどとりすましたお柳さまさえが、きょうは妙に取り乱してい

る。瞳がうわずって、とがって、そのために険のある顔がいっそうけわしく見えた。なに

かしら黒眼が急に大きくなったかんじで、牝め狐ぎつねの陰険さが、露骨にまえに押し出

されているかんじである。

 このときにあたって、ただ端然と、冷然と坐すわっているのはお喜多婆アである。お喜

多は薄眼を閉じたまま、ひややかに、しかし、辛しん辣らつに一同の顔色を読んでいる。

この冷たい石のようなお喜多をここにおくことによって、一同の狼ろう狽ばい、動揺、驚

きよう愕がくの効果が、いっそう強められているようにかんじられる。

「仙石、おまえか。おまえがあの首をかくしたのか。そうじゃ、そうじゃ、そうでなくて

あんなところに、首があろうなどとどうして知ろう。仙石、おまえが殺したのじゃ。おま

えが守衛さんを殺したのじゃ」

 お白州で罪人に笞むち打うつ端役のように、四方太は凄すごんでいきり立った。こうい

う知恵の足りない男でも、日頃の鬱うつ憤ぷんはあるのだろう。そして知恵の足りない男

だけに、それをおさえたり、あとさきのことを考えたりすることが出来ないのだろう。

「不ふ埒らちなやつ、無道なやつ、……人の皮きた畜生、人面獣心、うぬらのようなやつ

は……うぬらのようなやつは……」

 四方太は地団駄踏みながら、拳こぶしをふりあげてかかったが、さすがにそれをふりお

ろす勇気はなかった。

「なんじゃ、なんじゃ、なんじゃ、その顔は……睨にらんだとて怖こわくはないぞ。誰が

そんなことでおそれるものか。守衛さんは、きさまにとって主人じゃぞよ。主を殺さば逆

さか磔はりつけじゃ。この人非人めが」

 なんといわれても鉄之進はこたえない。おりおり首をかしげながら、何かしら、記憶の

底からさぐり出そうという顔つきである。

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