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第二章 大惨劇--舞台は廻る(2)
日期:2023-12-20 13:22  点击:290

「仙石」

 私は直記をふりかえった。

「あの首は……守衛さんの首にちがいなかったのかい」

 仙石はくらい顔をしてうなずいた。

「それじゃ、殺されたのは、やっぱり守衛さんだったのだね。と、すると蜂屋のやつはど

うしたろう」

「蜂屋なんていやアしない。蜂屋なんて男はこの事件に、なんの関係もありゃしないの

だ」

 突如、そのとき、座敷の隅から鋭い声がきこえた。お喜多婆アである。

 半眼に閉じた瞼まぶたの下から、お喜多は針のような眼で、ジロジロと鉄之進とお柳さ

ま、それから直記を見ながら、

「蜂屋なんてのは藁わら人形も同然なのじゃ。事件をこんがらかすために、つれて来られ

た道どう化け役者じゃ。みんなおまえたちが、守衛さんを殺すためにやった仕事なの

じゃ。鉄之進とお柳、それから直記、おまえたち三人が、よってたかって守衛さんを殺し

たのじゃ。わたしは知っている。わたしははじめから知っていたのじゃ」

 お喜多婆アは決して激げつ昂こうを言葉の調子にあらわさなかった。鋭いが、落ちつき

はらって、一句一句語尾に力をこめながら、宣告するようにいうのである。それだけに、

この老婆の持っている気き魄はくの恐ろしさが、骨の髄までしみとおるようであった。

「お父さん」

 直記は無理にお喜多の言葉を無視しようとした。しかし、その声はまるで咽の喉どに魚

の骨でもひっかかっているようであった。

「あなたはどうして、あの池を見にいかれたのですか。あなたはあそこに、あんな恐ろし

いものがあることを、まえから御存じだったのですか」

 鉄之進は面目なげに眼をまばたきながら、

「わしは知らぬ……わしには何んの憶おぼえもない。第一、わしはほんとうに、奥の池へ

いったのだろうか」

「仙石、おまえはそれをゴマ化そうというのか。ゴマ化そうたってゴマ化されぬぞ。おま

えが奥の池の、石を持ちあげているところを見たものは、わしばかりじゃないのだぞ。こ

れここにいるこのひと何んといったかな、あんたの名は……ああ、屋代さん、屋代さんも

ちゃんと見てござるのだ。白ぱくれようたってそうはいかぬ。それは……おお、何よりの

証拠は、おまえの寝間着だ。見い、その裾すそを、……グッショリ濡ぬれたその裾を、

……それが池へ入ったという何よりの証拠じゃ」

 四方太が膝ひざをたたいてわめいた。

「お父さん、あなたは何も憶えていらっしゃらない。それは、あの病気中のことですから

無理もないのです。しかし、あなたが夢中遊行を起こして、フラフラとのぞきにいった石

の下に、偶然、生首がかくしてあったなどというのは、あまり話がうますぎます。お父さ

ん、あなたはひょっとすると、あそこに首があるかも知れないと、まえからかんがえてい

られたのじゃありませんか」

 鉄之進はまた、混乱したようにまばたきした。

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