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第二章 大惨劇--舞台は廻る(3)
日期:2023-12-20 13:22  点击:310

「そういえば、わしは、このあいだから考えていたのだ。わしはなあ、あまり取り乱した

ところは見られたくない性じゃ。だから、事件が起こってからも、出来るだけ落ちつくよ

うにしているのじゃが、そりゃあ人間じゃもの。あのようなことが起こってみれば、やは

り大きなショックはうける。わしは日がな夜がな、あの事件のことを考えたのじゃ、首の

ない死体のことを考えたのじゃ。いったい犯人は、どこへ首を持っていったろう。どこへ

首をかくしたろう。わしはそれを考えた。考えて、考えて、考えつめた。生首のような物

騒なものを、犯人がそう遠くまで持ちはこぶわけがない。それにこの屋敷はひろいのじゃ

から、かくすところにことは欠かぬ。どこにでもかくす場所はある。犯人はきっと、この

屋敷のどこかに首をかくしているにちがいない。わしはそういうふうにかんがえた」

 鉄之進はそこでひといき入れると、

「それならば、犯人は首をどこへかくしたか。それをかんがえるには、自分が犯人の立場

になって考えるのがよいと思いついた。いや、自分が犯人ならば、どこへかくすだろうか

と考えてみたのじゃ。かくすところはどこにでもあった。しかし、わしが考えるところ

は、たいてい警察の連中が、すでに調べたところばかりだった。調べても出て来なかった

のだからそこではない。最後に思いついたのが、あの石の下だった。わしはあの重なり

あった石の下がうつろのようにくぼんでいるのを、ずっとまえから知っていた。ちょうど

首を入れるくらいの孔あなになっている。あそこなら面白い、首をかくすのにお誂あつら

えむきの場所だと思った。それに警察の連中も、あの石をあげてまでも捜しはしなかった

ろう」

 鉄之進は息切れがするように、そこでまた言葉をきると、

「わしはそう考えるとたいへん愉快じゃった。誰も知らぬうまいかくし場所をさがしあて

た気になって、たいへん得意であった。しかし、そうはいうものの自分の考えがあまり空

想的で、子供っぽいような気がしたので、自分でその場所をしらべにいく気にはなれなん

だ。第一、あの石の下にうつろがあることを知っているのは、わしよりほかにない筈はず

なのじゃ。犯人がそれを知っていよう筈がない。そう考えると、わしは何んだかバカバカ

しくなって、しらべにいくのは思いとまった。しかし、思いとまったもののそのことが始

終わしの気になっていた。……奥の池の石の下……奥の池の石の下……そういう言葉がし

じゅうわしの耳に囁ささやきかけた。きょうわしが病気を起こしてあそこへいったのは、

多分そのためじゃろうと思う。しかし、……そこにほんとうに生首があったなどと……そ

れはほんとうか。わしをかついでいるのではないか」

「ほんとうだとも、ほんとうだとも。おまえがかくして、おまえが見にいったのだ。生首

はちゃんと石の下にあったのじゃ」

 四方太がまたわめいた。

「問うに落ちず、語るに落ちるとはまったくこのことじゃな。鉄之進、おまえいまなんと

いわれた。あの石の下にくぼみがあることを知っているのは自分ばかりだといわれたな。

してみれば、そこへ生首をかくしたのは、やっぱりおまえさんじゃ。おまえさんよりほか

にありゃせん」

 四方太のキイキイ声のあとにつづいて、お喜多婆アがゆっくりと、かんでふくめるよう

にいった。そして彼女の言葉がとぎれると、急にあたりはシーンとしずまりかえった。

 そこへお藤が入って来た。

「あの……」

 と、お藤はオドオドと一同を見渡しながら、

「お嬢さまのお姿が見えないのですけれど……」

「八っちゃんのすがたが見えない?」

 直記がはじかれたようにふりかえった。

「はい、そして、ベッドの枕まくらもとにこんなものがおいてあったのでございます

……」

 お藤がさし出した桃色の封筒を、直記がひったくるように取り上げた。

 それは八千代さんの置手紙で、文面はつぎのとおりであった。

 あたしは逃げます。誰もあたしのいう事は信じてくれないでしょう。いえいえ、信じない

のは他人ばかりじゃない。あたし自身、自分が信じられなくなりそうです。あたしは逃げ

ます。すがたをかくします。誰もあたしを捜さないで下さい。捜してもムダですから。

八千代

 直記と私は思わず顔を見合わせた。

 八千代さんが逃げた。そして、そのために舞台は大きく転換して、古神家の殺人事件

は、古神家の旧支配地、岡山県の山間部落にうつることになったのであった。

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